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海宝直人&黒羽麻璃央インタビュー/下

舞台で表現する『秒速5センチメートル』のもどかしさ

橘涼香 演劇ライター


海宝直人&黒羽麻璃央インタビュー/上

この事態に直面したからこそ生まれた演劇人の団結

──コロナ禍でエンターテイメントが様々な模索をしていて、こうした朗読劇や、ミュージカルでもコンサートバージョンでの上演などが広がっていますが、そうした多様な表現方法についてどう感じていますか?

海宝:こういった事態になったからこそ、新しい形の演劇が試されて生まれていくのは素晴らしいことだと思っています。コロナに限らず演劇は太古の昔から様々な経験を経て広がってきたものだと思うので、もちろん生で観て頂けないなど残念な思いもたくさんありましたが、そうしたネガティブな思考ではなく、状況をポジティブに捉えて新しいチャレンジができる。そこに参加できるのは幸せなことだと思っています。

黒羽:事態に直面したことによって、エンターテイメントに関わる人たちの団結力がすごく増したのを感じます。皆で演劇を救おう、皆でこの状況を乗り越えて行こうよ!という協力体制が確認できた、地に足が着いた気がします。特に舞台はどうしても「密」な状況でやらなければいけないこともあって「こんな時期に演劇なんかやるものではない」という意見もあったと思いますが、我々は自分たちのやっている仕事に改めて誇りを持った。キャスト、スタッフ、制作陣のすべてが、舞台の灯をたやしてはいけないという想いでひとつになれたのは、こういう事態の中で僕にとっての嬉しかったことのひとつです。

拡大海宝直人(右)と黒羽麻璃央=宮川舞子 撮影

──そんな新たな試みの中で特に印象に残っているものはありますか?

海宝:僕は無観客の配信作品「TOHO MUSICAL LAB.」の『Happily Ever After』に出演させて頂いたのですが、とても新鮮な経験でした。幸い皆様からの反響も大きくて、役者仲間からも「良かったよ!」「すごく面白かったよ!」という声をたくさんもらえたので、新しいものが生まれている実感もありました。30分の作品とは言えほぼ1週間で創ったので、これほどの短期間にひとつの作品が創れるんだというのも大きな発見でした。

黒羽:そもそも舞台作品を配信するという発想が生まれたこと自体が面白かったですね。千秋楽をLIVE配信したり、DVD等に収録したりということはこれまでも行われていましたが、全公演を生配信するという試みも生まれていて。そうなるとやはり役者は舞台上にいても「今このカメラで抜かれているな」というような、映像作品で感じていたことを舞台でも意識して、そういうお芝居をどこかで入れていくようになったのも面白かったです。

演劇的視点と、映像的感覚の双方がある

拡大海宝直人(右)と黒羽麻璃央=宮川舞子 撮影

──脚本・演出の三浦直之さんとのお稽古はこれまでいかがでしたか?

黒羽:的確な演出をいつもして頂きました。先ほども言いましたが、特に朗読劇は稽古時間が短いので、その短い時間の中での軌道修正がとても速いのがありがたかったです。『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』は時間軸が難しい作品だったので、それをわかりやすく、映像とのリンクも手際よく説明して下さいました。ひとつの作品を何チームでも演じるのですが、この役はこうでなければいけない!ということはなく、役者によって柔軟に、各々の良さが出るように対応して頂けました。

──海宝さんは先ほどお話下さった配信作品『TOHO MUSICAL LAB.』二本立ての、もうひと作品「CALL」が三浦さんの演出で、製作発表会見などでご一緒されていましたね。

海宝:稽古は2チームが完全に分かれていたので、稽古風景を拝見することはできなかったのですが、完成した作品を観させて頂きました。演劇的な視点と同時に、映像作品も多く手掛けられているだけに、映像的な感覚も持ち合わせていらっしゃる方だなと感じました。「CALL」は新しい試みとして、飛躍と発想力のある作品でしたし、この『秒速5センチメートル』もアニメーションで表現されたものを、舞台の朗読劇として三浦さんがどんな発想で飛躍させていかれるのかが、とても楽しみです。

◆公演情報◆
恋を読む vol.3『秒速5センチメートル』
2020年10月21日(水)~10月25日(日) ヒューリックホール東京
公式サイト
公式Twitter
原作:新海 誠
脚本・演出:三浦直之(ロロ)
【出演 ※出演日順】
入野自由×桜井玲香×田村芽実/海宝直人×妃海 風×山崎紘菜/前山剛久×鬼頭明里×尾崎由香/梶 裕貴×福原 遥×佐倉綾音/黒羽麻璃央×内田真礼×生駒里奈
全日程出演:篠崎大悟(ロロ) 、森本 華(ロロ)
※スカパー!オンデマンドで生配信も決定!
 
〈海宝直人プロフィル〉
 7歳の時、劇団四季の『美女と野獣』で舞台デビュー。『ライオンキング』初代ヤングシンバ役に抜擢され、同役を3年間つとめる。子役卒業後は舞台やミュージカルなどに出演。16年ぶりに『ライオンキング』では主人公シンバ役として出演し、子役ヤングシンバが成長後リアルに大人シンバ役として出演するのは初めてのことで大きな話題となった。2018年5月には『TRIOPERAS』で海外舞台デビュー(ロンドン・ウェストエンド・ピーコックシアター)。また、ヴォーカリストとして2012年に始動したロックバンド「シアノタイプ」のライブ活動では、2018年1月にはメジャーデビューを果たし、今年12月2日にはニューアルバム『Break a leg!』リリース予定。
オフィシャルサイト
Twitter 
 
〈黒羽麻璃央プロフィル〉
 ジュノン・スーパーボーイ・コンテストにて準グランプリを受賞し、芸能界入り。2012年、ミュージカル「テニスの王子様」の菊丸英二役(7代目)で俳優デビューし、2014年11月まで同作品に出演。その後は舞台を中心に、ドラマや映画でも活躍する。主な出演作品はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』、ドラマ『寝ないの?小山内三兄弟』シリーズなど。
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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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