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学術会議会員の任命拒否は、人事だからこそ、その理由を言わねばならない

三島憲一 大阪大学名誉教授

「学問の自由」と結びついた政治的敏感さ

発言する益川敏英・京都大名誉教授(前列中央)。右は上野千鶴子・東京大名誉教授、左は佐藤学・学習院大教授=東京都千代田区の学士会館20150720拡大安保法制に反対して発言をする益川敏英・京都大学名誉教授(前列左)。右は上野千鶴子・東京大学名誉教授=2015年7月20日、東京都千代田区の学士会館

 エピソードをもうひとつ。2008年度ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏は、ストックホルムでの受賞演説を父親の話から始めた。家具の会社を作るという父親の夢は戦争で実現しなかったと語りながら、「自国が引き起こした悲惨で無謀な戦争で無に帰しました」とつけ加えた。

 氏の語るところによると、帰国後、学会のある人から、受賞演説で政治の話はしない方がよかったのでは、といった注意を受けたそうだ(『科学者は戦争で何をしたか』集英社新書)。益川氏のような学者なら、政治によって科学どころか生活までズタズタにされたことに敏感な指摘をするのが当然なのに、21世紀になってもまだこうした怪しげな政治的中立、いや政治的無関心を信条として、ノーベル賞受賞者にすら注意する学会仲間がいるようだ。

 こうした中で、公権力の介入と資本の誘惑から「学問の自由」を守るためにこそ政治的敏感さが必要であるとする感性の維持に努めてきたのが、日本学術会議だ。「学問の自由」は政治的敏感さとわかちがたく結びついているという確信は、学術会議を超えて日本の研究者に広く共有されている――と思いたい。最初の二つのエピソードを考えると「思いたい」としか言いようがないが、この問題に関する学術会議の意義は大きい。だからこそ環境汚染であれ、遺伝子組み換えであれ、ジェンダー配分であれ、政治的でもあるさまざまな問題に学術の立場から貴重な提言をこの組織はしてきた――ご意見番としての宣伝は上手ではなかったかもしれないし、専門エゴを押さえ込んで、原発廃止などの提案はやろうとしてもできなかったようだが。

 この学術会議の会員推薦名簿のうち6人の任命を首相が拒否するという大事件が発生した。学術関係者だけでなく、映画界をはじめさまざまな分野から批判と抗議の声が、そしてあきれたという嘆きの声があがっている。

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筆者

三島憲一

三島憲一(みしま・けんいち) 大阪大学名誉教授

大阪大学名誉教授。博士。1942年生まれ。専攻はドイツ哲学、現代ドイツ政治の思想史的検討。著書に『ニーチェ以後 思想史の呪縛を超えて』『現代ドイツ 統一後の知的軌跡』『戦後ドイツ その知的歴史』、訳書にユルゲン・ハーバーマス『近代未完のプロジェクト』など。1987年、フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞、2001年、オイゲン・ウント・イルゼ・ザイボルト賞受賞。

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