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the 原爆オナニーズ、60歳超の現役パンク・ロックバンドの衝動

「社会に生きる人の意識」でコロナと向き合う

印南敦史 作家、書評家

 コロナ禍の影響で、相変わらず音楽関係者は苦境に立たされている。ライブハウスなどの“場”のみならず、今後どうするべきかという選択を強いられているのが、実際にステージに立つ存在、すなわちミュージシャンだ。

 ただでさえ、この数年で音楽産業の構造は大きく変化した。ストリーミングの急速な浸透などの影響もあり、レコード会社と契約して作品をリリースするという“これまで当たり前だった手段”も成り立たなくなっている。

 そのため多くのミュージシャンは、収入源としてのライヴに重きを置くようになった。ところがそんな矢先、コロナが“場”を奪ってしまったのだ。

 だが、そんないまこそ、音楽で生きていくにあたっての“常識”を見なおす絶好のタイミングであるとも考えられる気がする。

 たとえばその常識のひとつが、「音楽をやるなら、音楽だけで食っていくべきだ」というような主張だ。実際にはそれができずに辞めていく人も少なくないのだが、そういった理想論に引きずられる人は減ることがない。しかし、いまこそ考え方を改め、これからのミュージシャンのあり方について問いなおしてみるべきではないだろうか?

 レコード会社と契約しなくても、仕事を持っていても、やり方次第で音楽を続けることはできるのだから。たとえばそのいい例が、1982年の結成以来、地元の名古屋で活動を続けているパンク・バンド、the 原爆オナニーズだ。

 日本を代表するパンク・バンドである彼らの姿を追ったドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』(大石規湖監督)の公開に合わせ、いろいろな意味でエキセントリックなこのバンドについて、ヴォーカリストであるTAYLOWの言葉も交えながら書いてみたい。

『JUST ANOTHER』(大石規湖監督) ©2020 SPACE SHOWER FILMS『JUST ANOTHER』(大石規湖監督) ©2020 SPACE SHOWER FILMS

『JUST ANOTHER』予告編

仕事とバンド活動の両立

 the 原爆オナニーズは、名古屋のパンク・シーンを代表する古株バンドであるTHE STAR CLUBのメンバーだったEDDIEと、メンバーの友人でマネージャー志向のTAYLOWを中心に結成された。以後、メンバー・チェンジを重ねながら38年間にわたって活動を続けてきたのである。

 のちにザ・スターリンやBLANKEY JET CITYに参加する中村達也や、Hi-STANDARDの横山健が在籍したことでも知られ、海外からの評価も高い。

 強烈なインパクトを持つバンド名は、セックス・ピストルズを意識したもの。“原爆”“オナニー”という単語を用いたことの背後には、「バンド名に嫌悪感などの反応を持ち、核・反戦について問題提起ができればいい」という思いがある。

©2020 SPACE SHOWER FILMS©2020 SPACE SHOWER FILMS

 現在のメンバーはTAYLOW(Vocal)、EDDIE(Bass,Vocal)、JOHNNY(Drums)、SHINOBU(Guitar)の4人。結成以来一貫して、地元である愛知に拠点を置いているが、彼らにはもうひとつ大きな特徴がある。

 結成当初からプロになることを目指さずに定職を持ち、TAYLOWとEDDIEが60歳を過ぎた現在でも、仕事とバンド活動を両立させている点だ。つまり「音楽だけで食っていくべきだ」というような思考性とは正反対の考え方を持っているのである。

 この点についてTAYLOWは、「生活とバンドは別と最初から割り切っているので

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