三島憲一(みしま・けんいち) 大阪大学名誉教授
大阪大学名誉教授。博士。1942年生まれ。専攻はドイツ哲学、現代ドイツ政治の思想史的検討。著書に『ニーチェ以後 思想史の呪縛を超えて』『現代ドイツ 統一後の知的軌跡』『戦後ドイツ その知的歴史』、訳書にユルゲン・ハーバーマス『近代未完のプロジェクト』など。1987年、フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞、2001年、オイゲン・ウント・イルゼ・ザイボルト賞受賞。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
任命拒否は「デモクラシーに住みついたファシズム」の始まり
はっきり言えば、軍事目的の研究に学術会議が反対の方針をなんどか打ち出しているのが気に入らないのだろう。少なくともひとつの大きな理由だろう。
惜しまれて早世した科学史家の広重徹氏は、その名著『戦後日本の科学運動』(こぶし書房)で、第一次大戦後、次第に軍事研究の奨励が「みのり」をもたらした例をあげている。ドイツ人技師の助けを借りた潜望鏡の改良から日本光学、そしてグローバルに活躍する企業ニコンへとつながる発展を批判的に取り上げているが、民生転用でみのりがあったからといって、何百・何千万の無残な死にいたる軍事研究を正当化するものでないことがその後の論述から見て取れる。カメラのレンズは軍事研究を経なくても進歩することは最近のスマホひとつ見てもわかる。軍事研究をしたかったら、ドイツのようにそのための別組織を作るか、民間企業の研究所を使えばいい。
さらにいえば、かねて「学術会議は左翼の巣窟だ」「アカだ」と見る人々が政府サイドに多いこともまちがいない。科学史の大御所の村上陽一郎氏ですら、「ある政党に完全に支配された状態が続きました」と学術会議の歴史を奥歯に物の挟まった言い方で振り返って述べているほどだ。
村上氏が今度の事件は学問の自由の侵害でもなんでもないと述べているのには、学問の自由とは公権力の介入に対する制度的保障であることを理解されていないようで、愕然としたが――前から順応能力抜群の方とは思ってはいたが――それは別にして、もう遠くなったある時期まで日本共産党系の人が学術会議で「活躍」していたとしても、「完全に支配していた」というのは間違いだ。そういう兆候にきわめて敏感に反応する天邪鬼が多いのが学者共同体だ。
側聞するところによれば、共産党系の会員
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