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【ヅカナビ】月組『ピガール狂騒曲』〜シェイクスピア原作「十二夜」より〜

タカラヅカにうってつけの物語、令和の月組が大胆に料理してみせた!

中本千晶 演劇ジャーナリスト


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 月組公演『ピガール狂騒曲』が面白いらしい、との評判だ。シェイクスピアの『十二夜』を題材とした作品である。なるほど、双子の兄と妹が登場し、妹が男装する『十二夜』は、タカラヅカにぴったりではないか。原作を知る人なら誰もがそう思うかもしれない。

 だが、このたびの月組版は一筋縄ではいかない。めくるめく変化球で観る者を翻弄しつつ、ここぞというときは直球が投げ込まれてくる感じだ。今回はそんな令和の月組版『十二夜』の魅力に迫ってみたい。

 まずは、オリジナルのストーリーを簡単に復習してみよう。

 「双子の兄妹セバスチャンとヴァイオラの乗っていた船が嵐で遭難した。イリリアの海岸に漂着したヴァイオラは、男装してシザーリオと名乗り、オーシーノ公爵の小姓として仕えることにする。公爵は伯爵令嬢オリヴィアにぞっこんだが相手にしてもらえないので、小姓シザーリオに想いを伝えるための使いを頼む。オーシーノに密かに恋心を抱くようになったヴァイオラにとって、それは辛い役目であった。

 ところが、オリヴィアは訪ねてきた小姓シザーリオ(じつはヴァイオラ)に一目惚れしてしまう。いっぽう、ヴァイオラの兄セバスチャンもじつは生きており、イリリアにやってくる。

 すったもんだの末、恋のもつれは見事にほどけ、ヴァイオラとオーシーノ、オリヴィアとセバスチャンという2組のカップルが誕生する。めでたしめでたし」

タカラヅカにおける『十二夜』いろいろ

 まさにタカラヅカにうってつけと思われるストーリーだ。実際この『十二夜』は、1999年に「バウ・シェイクスピアシリーズ」と称して若手作家がシェイクスピア作品を題材とした作品ばかりを上演するという試みが行われたときにも、二人の作家が取り上げている。木村信司による月組『十二夜 - またはお望みのもの -』と、大野拓史による星組『エピファニー -「十二夜」より-』である。

 さて、ここで問題になるのが双子の兄妹であるヴァイオラとセバスチャンをどうキャスティングするか、だ。基本的にいつも男性を演じるが、ごくたまに女性を演じることもあるタカラヅカの男役にとって、ヴァイオラは格好の役どころのようにも思えるだろう。

 だが、木村信司版『十二夜』は主演の大和悠河にはオーシーノ公爵をあて、キラキラとして麗しい王子様的なキャラクターとして描く。ヴァイオラはヒロインの扱いで、娘役の花瀬みずかが演じている。

 登場人物名や物語の展開、セリフの言い回しなど基本的にシェイクスピアの原作を踏襲した作りなので、もともとの『十二夜』を知りたい人にはおすすめだ。傲慢な執事マルヴォーリオを騙して貶める愉快なくだりも織り込まれ、大空祐飛演じるサー・トービー(オリヴィアの従兄弟・原作では叔父)がいい味を出している。

 いっぽう、大野拓史版『エピファニー』は、物語の舞台を何と日本の明治時代、演劇改良運動の真っ只中にある歌舞伎界に移している。日本物に強い大野氏らしい斬新な設定だ。ちなみにこの作品、大野氏のデビュー作だそうだ。

 そして、主演の彩輝直が歌舞伎役者の娘・おたか(ヴァイオラにあたる)と、その兄の高五郎(セバスチャンにあたる)の二役を演じている。フェアリータイプの彩輝にはぴったりの二役だ。行方不明の兄に成り代わって歌舞伎役者として舞台に立つおたかが、高名な文士の令嬢に一目惚れされてしまうという筋書き。最後には新しい時代の「女優」の誕生が描かれるという、女性だけの劇団タカラヅカならではの翻案となっている。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

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