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劇場の『ビリー・エリオット』、観客とともに

プロデューサーがつづる公演の歩み⑤【完】

梶山裕三 ホリプロ ファクトリー部副部長

「お守り」代わりの扇子が好評

拡大長期のレッスン、稽古を支えたダンスチーム、振付補の前田清実(中央)と木村晶子(左)、藤山すみれ
 いよいよ舞台稽古だ。海外チームが自宅にいながら、いつでも舞台稽古を高画質の映像で観られるように配信設備を整えた。稽古は舞台監督を中心に日本人チームの主導で進め、海外チームは映像を観ながら気づくことがあれば通訳を通じて伝えてくれた。

 ロンドン在住の照明スタッフ、音響スタッフもリモートで舞台稽古に参加してくれたが、通話アプリで伝えられる照明や音のクオリティには限界があった。しかし、初演を知る日本人スタッフが、自分たちの記憶と感覚を信じて、一つ一つのシーンを丁寧に作ってくれたので不安はなかった。

 9月上旬、オーケストラが合流し、サウンドチェックが行われた。オーケストラの演奏とキャストの歌の音量のバランスを決める重要な時間だ。

 ここで初めてキャスト全員にマスクを外してもらう。マスクをつけたままでは実際の声量がわからず、バランスを決められないからだ。

拡大扇子で口元を隠すバレエガールズ役の井坂泉月(左)と井上花菜
 ずっとつけていたマスクを外すのは、勇気がいることだ。そこで、キャスト全員に名前入りの扇子を配布し、マスクなしで会話をするときに使用して欲しいと伝えた。最初は「お守り」のようなつもりで配ったのだが、意外に好評で、舞台を降りたらすぐに扇子を開き、口元を隠しながら歩く姿が楽屋では日常の光景となった。

 さらに会社の産業医から「ウイルスは胃酸で死滅するので、舞台を降りたら水を飲み、クチュクチュごっくんしてください」とのアドバイスを受けたので、すぐにキャストに伝える。こうした感染予防対策は効き目があるかどうか考える前に、すべてまずやってみた。目に見えないウイルスに立ち向かうには、自分たちはこれだけ感染予防をしている、と思える具体的な何かが必要だったのかもしれない。

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筆者

梶山裕三

梶山裕三(かじやま・ゆうぞう) ホリプロ ファクトリー部副部長

1978年名古屋市生まれ。早稲田大学在学中、ミュージカル研究会でオリジナルミュージカル創りに没頭し、卒業後は舞台制作者を志す。2001年吉本興業に入社。「よしもと新喜劇」の制作などを経験した後、06年ホリプロに入社。多くの舞台のプロデュースを手掛ける。近年は「日本から世界へ発信する」との目標を掲げてオリジナルミュージカルに取り組み、15年初演「デスノート THE MUSICAL」は、日本で大ヒットした後、韓国人キャストによる韓国公演も実現、ホリプロ作品として初の海外ライセンス上演を果たした。18年には黒澤明監督の代表作「生きる」を世界で初めてミュージカル化。20年10~11月に東京、富山、兵庫、福岡、愛知で再演される。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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