メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

『政治家の覚悟』で見えた菅義偉に決定的に欠けているもの

「無ロゴス主義」から現れる首相の言葉

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

 この記事を書くために、国会図書館に行ってきた。2012年に刊行された『政治家の覚悟 官僚を動かせ』の単行本版を見たかったからだ。古書で探したら2万円近くの値がついていて、それほどの対価を払うことかと思い、諦めた。

 コロナ禍対策で抽選制の国会図書館内は人影もまばらだったが、最初のリクエストでは「現在、貸出中」であり、次には「この資料は貸出し不可です」という赤字のメッセージが端末に出て、とうとう借りることはできなかった。折しも道路を1本隔てた国会議事堂の中では臨時国会が始まっていた。まさかここまで官邸の手が伸びているとは考えたくもないが……。

菅首相の著書「政治家の覚悟」菅義偉著『政治家の覚悟』(文春新書)
 文藝春秋社から新書版が出るやいなや話題となった、例の「公文書」に関する記述がゴソッと除かれているということもこの目で確かめたかったが、諦めるしかない。よってこの新書版のみを頼りに「菅義偉」という「著者」の本質を探ってみたい。

人事権を盾にした強行突破の自慢話

 と、勢い込んで読み始めてみたが、一向に面白くない。これほど面白くない本は初めてだと思うくらい、面白くない。

 この手の「政治家本」はいわゆるゴーストライターによって書かれたりすることが多いが、これは断じてそうではないと言い切ってもいい。なぜならば、いやしくもライターを名乗る人間であれば、これほど面白くない文章を書き連ねることに、耐えられるはずはないであろうから。

 冒頭からずっと、自慢話のオンパレードである。それもそのどれもが総論を欠いた各論ばかり。強いて総論めいたことを挙げるとするならば、「地方重視」と「国民目線、国民のために働く」という2点であろうが、前者に関して言えば、自ら売り物にしている「秋田出身」にしても、振り返ってみれば若くして上京して以来、主に貢献してきたのは横浜の行政であり、いわゆる「東北」はイメージとして利用しているに過ぎない。

菅義偉首相の生家前では、祝賀の花火が打ち上げられた=2020年9月16日午後7時6分、秋田県湯沢市菅義偉氏が強調する出身地の秋田では首相誕生に盛りあがったが……=秋田県湯沢市

 それでも秋田を大事にしているというのであれば、過日のイージス・アショアの一件などは郷土を愛する人間であれば屈辱以外の何ものでもなく、烈火の如く怒って当然だろう。しかしこの件に関して菅のそういうコメントは目にしたことがない。また、これまでの一連の沖縄に対する侮蔑的な態度をみれば、「沖縄」は菅の中では「地方」ではないのか、と問い返したくもなる。

 また後者について言えば、自らのポスターにも「国民のために働く」と大きく謳っているが、では「国民のために働かない政治家」とは何なのかを考えれば、これがいかに空疎なコピーであるかが分かる。

 さらに、そのストーリーも

・・・ログインして読む
(残り:約2800文字/本文:約3928文字)