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『政治家の覚悟』で見えた菅義偉に決定的に欠けているもの

「無ロゴス主義」から現れる首相の言葉

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

人事権を盾にした強行突破の自慢話

 と、勢い込んで読み始めてみたが、一向に面白くない。これほど面白くない本は初めてだと思うくらい、面白くない。

 この手の「政治家本」はいわゆるゴーストライターによって書かれたりすることが多いが、これは断じてそうではないと言い切ってもいい。なぜならば、いやしくもライターを名乗る人間であれば、これほど面白くない文章を書き連ねることに、耐えられるはずはないであろうから。

 冒頭からずっと、自慢話のオンパレードである。それもそのどれもが総論を欠いた各論ばかり。強いて総論めいたことを挙げるとするならば、「地方重視」と「国民目線、国民のために働く」という2点であろうが、前者に関して言えば、自ら売り物にしている「秋田出身」にしても、振り返ってみれば若くして上京して以来、主に貢献してきたのは横浜の行政であり、いわゆる「東北」はイメージとして利用しているに過ぎない。

菅義偉首相の生家前では、祝賀の花火が打ち上げられた=2020年9月16日午後7時6分、秋田県湯沢市拡大菅義偉氏が強調する出身地の秋田では首相誕生に盛りあがったが……=秋田県湯沢市

 それでも秋田を大事にしているというのであれば、過日のイージス・アショアの一件などは郷土を愛する人間であれば屈辱以外の何ものでもなく、烈火の如く怒って当然だろう。しかしこの件に関して菅のそういうコメントは目にしたことがない。また、これまでの一連の沖縄に対する侮蔑的な態度をみれば、「沖縄」は菅の中では「地方」ではないのか、と問い返したくもなる。

 また後者について言えば、自らのポスターにも「国民のために働く」と大きく謳っているが、では「国民のために働かない政治家」とは何なのかを考えれば、これがいかに空疎なコピーであるかが分かる。

 さらに、そのストーリーも

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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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