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中津留章仁の新作はYouTubeがモチーフ/下

虚構感とリアルの間で揺れる若者を描く『通りすがりのYouTuber』

大原薫 演劇ライター

中津留章仁の新作はYouTubeがモチーフ/上

冨岡健翔の印象は、誠実で芯がある人

――主人公の男を演じる冨岡健翔さんは虚構の設定の世界に巻き込まれてしまうという役柄とのことですね。

 冨岡さんとは一度お話をさせていただいたんですが、非常に誠実で、芯がある方だなという感触を受けました。業界ズレしていないというか、非常に好感が持てる方。誠実に素朴に生きている方だと感じました。わからないことに対しては「わからない」と言う。嘘がつけない正直な人なんだと思います。だからこそ、嘘に対して「やっぱりこれではいけないんじゃないか」「人として、こんな生き方があり得るのか」と言える主人公が演じられるのではないかと思いました。冨岡さんが演じるなら、「ビジネスとしてお金が儲かるんだから、嘘の設定でも良いじゃない」という考え方に対して「嘘で良いんだろうか」と素直に言えるかなと思ったんです。

拡大中津留章仁=岩田えり 撮影

――虚構というテーマについて、中津留さんは日ごろから考えていることがあるのでしょうか。

 僕らはこういう(演劇の)仕事をやっているわけだから、常に人々が現実をどうとらえるか、虚構をどう欲するかと、常に考えているんです。今はいろいろなことが起きて未整理なまま、心の中で分断が起きている状態。そもそも何も信じられなくなっているから、僕ら(プロフェッショナルな作り手)が作るものより素人が作る虚構の方がいいんだと思う。それは見る人が作り手と同じ価値観、同じ違和感を持っているからなんですよね。

 たとえば今のコロナ禍の状況で医学的な報道がなされたとして、「いや、コロナなんて本当は大したことないんだ」と思う人や、「いや、本当は報道されてる何百倍も感染者がいるんだ」と思う人がいる。一個一個の情報に対して、自分なりの虚構感で楽しんでいるんだと思うんです。「(報道を)信じたくない」という感覚も一つの虚構感ですからね。自分の内側には分断が起きていて、正確な判断の仕方がわからないから、自分の都合のよいように解釈する。これが、それぞれの人が虚構を欲しているということと共通しているんですね。

演劇という大きな嘘の中で感じる「リアル」

――では、今回は虚構を欲している人々の現状まで切り込んでいく作品になる……?

 とはいえ、芝居としてはとてもわかりやすいエンターテインメントにしようと思っていますね。今言ったような仕掛けに気づかなくてもいいんです。人間がこのままでいいのかと考えるのは、僕ら芸術家の仕事なので。

――今に生きる人間の現実を映し出すのが、演劇の一つの役目ですから。

 日本に現代演劇が入ってきてから百年ちょっとたちましたが、長い演劇の歴史で芸術性が途絶えないようにしたい。百年、二百年たって今と似たような事態が起きたとき、この戯曲を手に取って「この時代にこういう虚構感が蔓延していた。だからこそ、こういう戯曲になったんだ」「この戯曲は今の時代にフィットするんじゃないか」と考えることもあり得ますから。これは人間を科学していく上では重要な作業ではある。たとえ観客に伝わらないとしても、資料としては残しておかないといけないんじゃないかなと思っています。

拡大中津留章仁=岩田えり 撮影

――今だからこそ作ることができる演劇ですね。

 人間の本質に少しは迫りながら、エンターテインメントにもしっかりなっている。そういうバランスがよいものになったらと思います。ジェットラグで新作を書くのは今回が初めてですが、ジェットラグの求めるエンターテイメントと僕の作家性が両立する作品として、ひとつの解答を見せられたらいいなと思っています。

――そうですね。エンターテインメントの中にも、はっとする一瞬があるんじゃないかと思います。

 そう、なんでもいいんですよ。台詞の一言でも雰囲気や感触でもいいんですけど、お客様が何か気づいたり、刺さったりする瞬間があればいいなと思うんです。舞台というのは、一つのお話を作って演じる「ザ・虚構」ですよね。演劇という大きな嘘の世界の中で、「自分が何かリアルに感じられるな」という一瞬があればいいなと思っています。

◆公演情報◆
拡大通りすがりのYouTuber
ジェットラグプロデュース
『通りすがりのYouTuber』
2020年12月9日(水)~12月16日(水) CBGKシブゲキ!!
公式ホームページ
【チケット取り扱い】
チケットぴあ:0570-02-9999 (Pコード503-363)
イープラス(e+) (PC・携帯)
[スタッフ]
作・演出:中津留章仁
[出演]
冨岡健翔(ジャニーズJr.)、十碧れいや、星吹彩翔、稲垣成弥、長谷川景(トラッシュマスターズ)、山田元、中野郁海、蓮井佑麻、松本祐華(文学座)、佐野愛花
鬼頭典子(文学座)、鈴木歩己

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

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