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子供も大人も楽しめる雅楽を。伶楽舎が第50回ENEOS音楽賞邦楽部門を受賞

かつての音をだた復元するのではなく、今の私達が愉しめる音をめざして

堀川登志子 劇作家、演出家、唄浄瑠璃狂言作家、芸能評論家

 新型コロナウイルスの厄災が続いた2020年、数多くのイベントが中止に追い込まれまれ、伶楽舎も例外ではありませんでした。そんな中でうれしいニュースもありました。第50回ENEOS音楽賞(邦楽部門)を受賞したのです。11月20日の授賞式は通常と異なったオンラインでの開催となりましたが、アーカイブとして保存され、サイトで授賞式の様子を見ることができます。

 この賞は、JXTGホールディングス株式会社が社会・文化貢献活動の一環として、個人、団体に贈賞するもので、従来のJXTG音楽賞からENEOS音楽賞と名称変更されました。歴代の受賞者の中から芸術院会員や多くの人間国宝が認定されるなど、モービル賞(創設1971年)から始まった、文化的にも歴史のある音楽賞です。

 伶楽舎は、昨年の7月4日に逝去した芝祐靖が宮内庁楽部を退職した後、現行の雅楽古典楽のほか、廃絶曲の復曲や現代雅楽の演奏を目指して創設しました。現在の代表理事で篳篥の演奏家の八百谷啓さん、理事で三鼓の演奏者の宮丸直子さん、音楽監督で笙の演奏家の宮田まゆみさんは伶楽舎の創立メンバーです。受賞の喜びを聞きました。

伶楽舎=J.Souteyrat撮影、伶楽舎提供

受賞は芝祐靖先生の導き

 「これは芝祐靖が受賞した賞です。芝先生は伶楽舎としては別格の方なので、同じ賞を頂けたことは大変嬉しく、芝先生の導きによるものと思っております」

――今年の芝祐靖の追悼演奏会は無観客の中での献奏になりました。

 「千日谷会堂本堂をお借しました。マスクをして互いの間隔も開けていますから、タイミングの合図をおくるなど工夫して演奏しました」

――対応の大変さが伝わってきます。公演の中止や延期も余儀なくされました。今もコロナ禍の終熄(しゅうそく)のメドがたたない状況ですが。

 「難しい対応に追われましたが、ようやく見通しがつくようになりまして、11月17日にはライブ配信で「芝祐靖の世界」特別公演をやりました。また、延期になっていた第15回雅楽演奏会『伶倫楽遊』は来年の1月31日に予定しています。ただ、子供のための雅楽コンサートも中止になっていますので、やはり実際に体感して欲しいので、来年は大丈夫なのか心配しています」

――今の世の中は対応にもユーチューブが必要不可欠です。

「毎年8月の仙台の大崎八幡宮のお祭りに伶楽舎も参加していたのですが、やはり移動は無理なので、演奏のご指導をするのも、ユーチューブで何度もやりとりをしなければなりませんでした。国立音楽大学で実技を教えていますが、演奏の自撮りをするのに、最初は慣れなくて本当に大変でした。
 きちんと録画されているか確認もしなくてはいけません。生徒さんも自撮りして送ってきますから、個々に何度もやりとりします。明治学院大学は音楽学を教えていますが、オンライン化を進めていますので出題や必要な資料など工夫が必要でした」

伶楽舎=村松謙撮影、伶楽舎提供

古典と新曲を一緒に公演

――これからも受け継いでいくものは。

 「公演した芝先生の作品だけでも150曲以上あります。他にも委託曲や古曲もありますので、ちょっと数えきれません。芝先生が私達によくおっしゃっていましたのは、他の人達がやっていないことをすることが大事だということです。伶楽舎では、必ず古典と新曲を一緒に公演しています」

――筆者も伶楽舎の演奏は何度も聴いています。古曲には風雅があって、そよそよと吹きすぎていくような、日常の喧噪を忘れてしまえる心地よさを感じます。そして新曲の、雅楽の固定観念を離れて斬新さを感じさせる妙趣は、まだ聴いてない方には是非聴いて欲しい美しい音色です。

 「新曲は他の邦楽器を用いるなど、雅楽の形式に留まらない音楽性溢れる世界です」

伶楽舎=平舘平撮影、伶楽舎提供
伶楽舎=平舘平撮影、伶楽舎提供

音を復元するだけでなく曲のイメージを大事に

――雅楽は決まった型があると思っていたけれど即興演奏も可能なのですか?

 「わりと自由に演奏できます。残り楽といいまして、平安時代から即興で演奏もされていました。平安時代は女性も雅楽の演奏を楽しんでいました」

――自由に、ジャズのセッションのように楽しんでいたということ。

 「宮内庁の雅楽部は古曲の継承ということがありますので新曲が演奏されることはありませんし、今でも男の方しか採用になりません。伶楽舎は女性の演奏家も多いので、それも特徴といえます」

――伝統芸能は男社会というイメージは強いけれど、女性の活動に支えられています。宮中、神社、仏閣の儀式楽として守られてきた雅楽ですが、女性演奏家の活動の場として伶楽舎の存在は大きく、失われてしまった古曲の復元にも力をそそぎます。

 「古譜からそのまま復元されるのが普通ですが、芝先生は演奏家でもいらっしゃいましたから、音をただ復元させるだけではなく、今の私達が愉しめる音でなくてはいけないと曲のイメージを大事にされていました」

伶楽舎=伶楽舎提供

伝承されなかった古楽器による演奏も

――伝承されてこなかった古楽器で復元曲の演奏を聴くと、そこは不思議な空気で満たされる世界。懐かしさと古さを感じさせない音の調べがあります。宮田まゆみさんは復元された大型の笙を演奏する演奏家ですが。

 「竽と笙が正倉院に残っていますので復元しましたが、おそらく大きすぎて吹くのが大変なので廃れたのかもしれません」

――宮丸直子さんも復元した鼓の演奏をしています。

 「正倉院に砂時計型の陶磁器でできた楽器があるのです が、その復元楽器を伶楽舎では使っています。大篳篥やメイも復元して曲のレパートリーの中に取り入れています」

――西域から伝わった大篳篥やメイの演奏家として活躍しているのが八百谷啓さんです。

 「面白いことに、敦煌莫高窟に残されていた琵琶譜から芝先生が復元して、それをもとに新たに『敦煌琵琶譜』という曲を作っています」

ーー雅楽の新しい地平を切り開いてきた伶楽舎。この厳しい社会状況の中で、また新しい一歩を踏み出すことになります。

 「子供達は先入観がありませんから、面白くなければすぐに飽きてしまいます。芝先生は子供に雅楽を聴いてもらうにはどうしたらいいか悩み、子供達が愉しめる曲を作曲しています。そうした曲や雅楽の楽器も珍しいと思いますので、ネットを使って世界に発信していきたいと思っています」

※延期になった第15回雅楽演奏会『伶倫楽遊』は1月31日(日)に予定されています。

伶楽舎=平舘平撮影、伶楽舎提供