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一路真輝インタビュー/上 『Op.110 ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』

恋人側からベートーヴェンを描く

橘涼香 演劇ライター


 楽聖と称される偉大な作曲家ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。聴力の低下に絶望しながらも、後世の作曲家たちに偉大な超えられない壁として立ちはだかるほどの、今尚、人々を魅了し続ける数々の楽曲を残した真の天才作曲家だ。

 そのベートーヴェン生誕から250年、現代を代表する演出家・栗山民也が、小熊節子原案、木内宏昌脚本による非常に詩的な物語の中で、ベートーヴェンが手紙に書き綴った「不滅の恋人」の視点を通して、ベートーヴェンその人を浮かび上がらせていく手法で描く、『Op.110 ベートーヴェン不滅の恋人への手紙』が、11月から兵庫公演を皮切りに上演される。

 そんな斬新な視点を持つ作品で「不滅の恋人」アントニー・ブレンターノを演じるのが一路真輝。革命の嵐吹き荒れるなか、身を売るようにウィーン貴族の家から実業家のもとへ嫁がざるを得なかったアントニーが、ベートーヴェンの音楽によって如何に絶望の淵から生かされていくのか。芸術によって結ばれた、魂の交流を描く作品に出演する思いを語ってもらった。

恋焦がれる人が舞台にいない難しさ

拡大一路真輝=岩田えり 撮影〈スタイリスト:江島モモ /ヘアメイク:熊田美和子〉

──どこかでは「詩」のようでもある素敵な台本で、まだ決定稿ではないそうですが、今の段階で作品をどう感じていますか?

 私もつい最近台本を頂いて読んだばかりなのですが、はじめに思ったのは今までにない形式で作られた作品になっているな、という印象が一番大きかったですね。ベートーヴェンの「不滅の恋人」への手紙というタイトルでありながら、実際にはベートーヴェンが出てこない。

──それは確かに、驚きでした。

 そうですよね。出てくる人物すべてがベートーヴェンについて語り、そこに一台のピアノがあって、新垣隆さんがベートーヴェンの音楽を奏でる。この設定を聞いただけでもワクワクするのですが、そこをひとつ置いて考えると、私が演じるアントニーとしては、恋い焦がれる人物が舞台上にいないんです。

──あぁ、そういうことになりますね。

 ですので、これはちょっとハードルの高い作品を頂いたな、頑張らないといけないなと思っています。

──皆様のお話の中から、実体としては登場しないベートーヴェンその人の像が浮かび上がってくるのですね。

 ですから役者たちがどう演じるかで、観る方にベートーヴェンをどんな人物として感じてもらえるかも変わっていってしまうので、キャスト全員が重大な責任を負っていると思います。

拡大一路真輝=岩田えり 撮影

──そんな中で「不滅の恋人」を演じることについてはいかがですか?

 まず今回アントニーを演じるにあたって、原案をの小熊節子さんとは私も長年の親交があるのですが、彼女はウィーンに嫁ぎ、ウィーンで音楽に関わる仕事に携わられている方で。きっとこのアントニーという役に対する想いが、一番強いのが小熊さんではないかと思うんです。その小熊さんがアントニーを私という役者を想像して下さった。それが何より嬉しいことだったので、今回はやはりその小熊さんの思いであったり、ウィーンの音楽への思いを大切に持って、今のこの時代にベートーヴェンの音楽の魅力と、アントニーという女性の魅力を伝えたいなと強く思います。重責ではあるのですが、頑張りたいです。

──ベートーヴェンが音楽監督を務めて、交響曲やオペラを初演したアン・デア・ウィーン劇場は、ミュージカル『エリザベート』を初演した劇場でもありますから、一路さんにはご縁の深い場所ですね。

 そうなんです!アン・デア・ウィーン劇場の音楽監督をベートーヴェンが務めていたとこを資料で読んだ時に、やはり強いご縁を感じました。アン・デア・ウィーン劇場で『エリザベート』が上演されていなかったら、私とウィーンとのご縁はここまではなかったですし、もっと言えば今の私もいないと思っているので、このお話が頂けたことを含めて、すべてがつながっている、どこか運命のようなものを感じます。

◆公演情報◆
拡大『Op.110 ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』
『Op.110ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』
兵庫:2020年11月28日(土)~11月29日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
富山:2020年12月2日(水) 富山県民会館ホール
愛知:2020年12月5日(土) 東海市芸術劇場 大ホール
東京:12月11日(金)~12月26日(土) よみうり大手町ホール
公式ホームページ
[スタッフ]
原案:小熊節子
演出:栗山民也
脚本:木内宏昌
音楽・演奏:新垣隆
[出演]
一路真輝、田代万里生、神尾佑、前田亜季、安藤瞳、万里紗、春海四方、石田圭祐、久保酎吉
 
〈一路真輝プロフィル〉
 宝塚歌劇団トップスターとして『風と共に去りぬ』、『ベルサイユのばら』などの話題作に主演し、1996年日本初演となる『エリザベート』のトート役で退団。 同年に、東宝ミュージカル『王様と私』のアンナ役で女優としてのスタートを飾る。結婚・出産を経て、2010年3月にコンサート『live@クリエ』を行い、同年末から5年振りの再演となる『アンナ・カレーニナ』で本格的に舞台復帰する。以前にも増した熱い演技にミュージカル女優としての存在を新たにする。1996年第22回菊田一夫演劇賞、04年第12回読売演劇大賞優秀女優賞受賞。2016年第37回松尾芸能賞優秀賞受賞。
公式ホームページ

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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