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【公演評】宙組『アナスタシア』

真風涼帆と星風まどか、充実トップコンビが奏でる大作ミュージカルの醍醐味を味わう

さかせがわ猫丸 フリーライター


 宝塚宙組公演、ミュージカル『アナスタシア』が、11月7日、宝塚大劇場で初日を迎えました。

 この作品は1997年公開のアニメーション映画から生まれたミュージカルで、2017年にブロードウェイでの初演以来、世界各国で上演され、大好評を博しました。帝政ロシア時代、処刑された皇帝ニコライ2世とその一族でただ一人生き残ったと言われる皇女アナスタシア。彼女の噂を糧に、詐欺師と記憶喪失の少女が織りなす愛と希望の冒険劇は、まさに宝塚歌劇にピッタリなロマンチックストーリーでしょう。

 宙組トップスター真風涼帆さんは、これが大劇場での主演5作目。心身ともに充実期を迎え、『アナスタシア』の上演は、今の宙組に最もふさわしいかもしれません。トップ娘役・星風まどかさんと魅せる絶妙のコンビネーション、名曲の数々、そして、傑出した宙組のアンサンブルで、海外ミュージカルの醍醐味をとことん味わわせてくれました。(以下、ネタバレがあります)

序章はロマノフ王朝の悲劇から

 宙組が大劇場へ帰ってきたのは約1年ぶりです。コロナ禍で長らく間隔を開けていた客席も、初日からすべての座席が埋められました。音楽はまだ録音ですが、指揮の御崎惠先生が開演前に挨拶に立つなど、臨場感はそのままです。

 『アナスタシア』は、アカデミー歌曲賞、作曲賞にノミネートされた名曲が目白押しですが、今回は宝塚バージョンとして、新たな楽曲も書き下ろされました。ブロードウェイミュージカルらしい名場面の連続に、きっと誰もが酔いしれるはず。

 20世紀初頭のロシア・サンクトペテルブルク。物語は、ロシア帝国皇帝ニコライⅡ世の末娘アナスタシア(天彩峰里)が、パリへ移住する祖母・マリア皇太后(寿つかさ)から、忘れ形見として小さなオルゴールを手渡されたところから始まります。やがてアナスタシアは17歳の美しいプリンセスに成長しますが、王宮での舞踏会で突然、ボリシェヴィキが乱入し、一家は暗殺されてしまうのでした。

 マリア皇太后を演じるのは組長の寿さん。くしくも2017年の宙組公演『神々の土地〜ロマノフたちの黄昏〜』で演じた同じ役なのが粋な計らいです。天彩さんが演じる無邪気なアナスタシアを、慈愛にあふれるまなざしで包み込み、このオルゴールで自分を思い出すようにと伝えるシーンは、ただ温かいだけではなく、のちにじわじわと効いてくるものでした。

 ニコライⅡ世役の瑠風輝さんのスマートで渋い軍服姿や、アナスタシアの弟アレクセイ役の遥羽ららさんの可愛さがひときわ目を引きます。そんな幸せなロマノフ王朝も、やがて終焉の時を迎えました。この物語のすべては、ここからが始まりだったのです。

胸に迫る真風の心情変化

――ロシア革命から10年。いまだ混乱のサンクトペテルブルクでは、アナスタシアが生き残っているという噂が広まっていた。探し出した者には皇太后から報奨金が与えられるという。さっそく詐欺師のディミトリ(真風)は、相棒のヴラド・ポポフ(桜木みなと)とともに、似た娘を探し出し報奨金をだまし取る計画を立てる。そこへ、幼い頃の記憶がないという掃除婦のアーニャ(星風)が訪ねてきた。ディミトリは彼女をアナスタシアに仕立てようと企み、歴史や行儀作法をアーニャに教育する。やがて3人は資金をかき集め、マリア皇太后の住むパリへと旅立つのだが――。

 詐欺師としてずる賢く生きてきた青年ディミトリは、屈折しながらも力強く混沌の時代を生きてきました。男役としてのスタイルを確立した真風さんは、オーラと貫禄も抜群。貧しい青年のナチュラルなスタイルでも、その魅力は隠せません。

 ディミトリは当初、儲け話のためだけに一生懸命でしたが、アーニャとぶつかりあい、さまざまな事実を掘り当てるうちに、何かが揺らぎだしました。変化していくディミトリの心情を、真風さんは繊細に演じています。さりげない彼のやさしさと強さには、きっと心がわしづかみにされてしまうこと間違いなしでしょう。

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筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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