2020年11月14日
伝統とは受け継ぎ、磨き、伝えるもの。
この激動の現代社会で、伝統を守り抜いていくのは容易ではない。
それは韓国でも一緒だ。国家次元で韓国伝統音楽を保護しているものの、その道は厳しく、選ばれた者たちだけが生き残っていく世界になっている。
2020年9月23日、韓国でミンヨンチ伝統音楽独奏会を行った。
高校から韓国に渡り、伝統音楽専門学校、国立国楽高等学校、大学もソウル大学国楽科を卒業。
大学卒業時、韓国にある有名国楽楽団からたくさんのお誘いが来た。けど、幼少の時からブラスバンドや西洋音楽にも興味があった私は、どうしても大好きな韓国伝統音楽とこれまた大好きな西洋音楽の融合を目指していたので、そのせっかくのお誘いをお断りして、フリーランスの道に入り、国楽フュ―ジョンジャンルの発展に力を入れたのである。
おかげさまでたくさんの作業や作品を残すことができ、たくさんの伝統業界以外の友だちもできた。そして現在に至り、今も探求中である。
この伝統音楽と西洋音楽の融合コラボを行ってきたのも、なぜかというと全ては伝統音楽が大好きだったからである。
高校、大学とどっぷり 韓国の伝統音楽を勉強し稽古し、深く深くはまりました。
その芸術性は、朝鮮半島、韓国の本髄であり、ルーツでもあり、文化歴史追求にも深く携わることができます。それはそれは素晴らしい世界で、私にはかけがえのない大きすぎる財産です。
その伝統音楽だけでの独奏会を行うには、いくつかの問題があります。
韓国も新型コロナウイルスの影響で、劇場はほとんど借りられない……場所押さえからの始まりだ。
まず国や市が運営している劇場は予約することができても、当日近辺に集団感染があったら、クローズになってしまう。
そこで思いついたのが、ジョンヒョ国楽財団というところにある音楽堂。
このジョンヒョ国楽財団とは、カンナムにある国楽財団で、そこの代表が、過去何回か一緒にお仕事もした僕の高校の後輩。
その彼に相談の連絡を入れると、「それはいい! では、僕の劇場の企画公演、“名人名踊傳”でやりましょう!!」と。
これで公演名が、なんと「名人名舞傳 ミンヨンチ独奏会」になってしまったのです。
私ごときが名人だなんて、滅相もない……お恥ずかしい……
ん、いや、けど、ちょっと待てよ、私らが学生や若い時に、よく見に行ってた名人たちの演奏。その名人たちの演奏をみて沢山勉強し、刺激をもらいました。
で、逆算してみると、その名人の先生たちのその時の年齢は今の私の歳と一緒くらいだ。
ということは、そう題名つけても罪ではない……とあっさり納得し、そうさせてもらうことになった。感謝ジョンヒョ国楽財団!!
次は、曲目をどうするか。
私は、韓国の打楽器、チャング奏者で活動をしているが、実は高校大学と専攻は、韓国の横笛、テグムなのである。
独奏会の持ち時間は、全部でおよそ60分弱くらい。
テグム独奏、ソヨンソク流テグム散調 15分。
チャンゴ2曲、三道ソルチャングカラク 15分。
チャングシナウィ 15分。
司会を入れて、60分弱である。
ソヨンソク流 散調。
わたしは高校大学時、計9年ほど、ソヨンソク流テグム散調を、故ソヨンソク先生から直接師事した。
散調とは、韓国の唱パンソリを器楽化したもので、独奏曲である。
三道ソルチャングカラク。
元祖サムルノリの創始者、キンドクス先生が構成された、湖南地方、嶺南地方と、その他の地方に伝わるプンムル(農楽)チャングの曲。
チャングシナウィ。
これは、私が、これまでに研究してきた、チャングのシャーマンのリズムなどを構成して即興で演奏。シナウィとは、国楽用語で即興で演奏する意味。JAZZを意味します。
それからは、練習の日々。そしていろいろ思い出しました。
習いたてだった学生の時を、師匠方たちを。つらかった日々も。
日本からいきなりやってきて、会話もろくにできなかった私にみんなよくしてくれた。
確かにその時代の韓国では、日本から来たというだけで嫌な目で見られたりもしたが、けど音楽の稽古となると差別なく対してくださった。
そして日韓社会の変動、オリンピック、学生デモ、IMF、日韓ワールドカップ、韓流、嫌韓……様々な時代背景を経ながら、私はこの音楽と一緒にいたのだ。
そう思ったら心が熱くなった。
おかげさまで独奏会は、とてもいい演奏を終えることができた。
およそ1時間のソロの練習は非常にきつかった。
けれども、それ以上に達成感や、師匠や家族への感謝、スタッフさんたちへの感謝の気持ちが感情に満ち溢れ、稽古でつらい思いはしたけれども、その対価に他では味わうことのできない、最高の幸福感を得たのである。
だからまだまだ続けるのである。
本当は日本でも公演したかったが、コロナ禍の中で実現できなかった。ぜひ来年には、日本でも実現したいものである。
終演後、師匠であるサムルノリのキンドクス先生が、他所であった公演を終えて駆けつけ一緒に打ち上げに参加してくださった。本当に光栄です。
なのでこれからも、伝統を受け継ぎ、磨き、次に伝えるために精進してまいります。
本当にありがとうございます。
独奏会を見れなかった皆さんへ。私のホームページで独奏会の動画を見ることができます!
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