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カマラ・ハリスと野田聖子。「初の」「唯一」女性の高揚と「ぬるい湯」

矢部万紀子 コラムニスト

 この秋に始まったドラマでお気に入りは、「姉ちゃんの恋人」(フジテレビ系)と「七人の秘書」(テレビ朝日系)。流れる空気が似ているからだ。作風はまるで違うのに、どちらも「女性同士が普通にいる」空間が描かれ、心地よい。

 この「普通」、案外難しい。そう書くと、「女の敵は女だよね」とうれしそうに近づいてくるおっさんが目に浮かぶが、そうではない。敵とか味方とかでなく、ただ同席する。そんな当たり前が、一朝一夕にはいかない。だからこそ、最近「シスターフッド」(女性同士の連帯)という言葉が注目されているのだと思う。

 などと考えたのには、アメリカ大統領選が影響している。民主党のジョー・バイデンさんの当選が11月8日未明(日本時間)に確実になり、カマラ・ハリス上院議員が副大統領になることが決まった。うれしかった。

「女性初の」「黒人初の」という肩書きがこれまでも多かったカマラ・ハリス氏 Sheila Fitzgerald/Shutterstock.com「女性初の」「黒人初の」肩書きがこれまで多かったカマラ・ハリス氏 Sheila Fitzgerald/Shutterstock.com

 その日の午後、テレビで16、7歳くらいの女子が「私はとても若いけど、カマラ・ハリスが副大統領になることがとてもうれしい。この国の可能性を感じる」と語っているのを見て、ウルっとしてしまった。来年還暦を迎える身としては、若い女性が未来を語ると、それだけで感動する。

ハリスよ、おまえもか

ハリス氏を演説会場の外で見守り、歓声をあげる支持者ら=2020年11月7日夜、米デラウェア州ウィルミントンハリス氏の「勝利演説」はバイデン氏の演説よりも話題になったほどだった=2020年11月7日、米デラウェア州ウィルミントン

 ハリスさんは、私より3つ下の56歳だ。バイデンさんの勝利演説に先駆けた演説はとても評判がよく、「4年後の大統領候補が確実になった」とする解説もたくさん見た。中で一番注目されたのは、「私は初の女性副大統領になりますが、最後の女性副大統領にはならないでしょう」だった。「なぜなら今夜、ここが可能性に満ちあふれた国だということを、すべての少女たちが目の当たりにしたからです」と続いた。

 少女と未来。ウルっとするカードが2枚そろっているのだが、そうならなかった。うーん、少女かー。ちょっと遠いなー。そう思った。ハリスさんの表現は、「every little girl」。小さい女の子が副大統領になるのには、何十年とかかってしまう。それまで副大統領は出ないのかなあ。後に続く人がすぐ近くにいるはずだから、その人たちのことを語ればいいのに。そう思い、「ハリスよ、おまえもか」。そんなふうに思った。

 ブルータスには詳しくないのに「おまえもか」と思ったのは、自分に重ねたからだ。おこがましいことは承知しているが、「長く働いてきた同年代の女性」同士、日米の違いはあれど同じような環境にいたと思う。彼女は演説で、19歳の時にインドから来た母の話をし、「おそらくこの瞬間を想像もしなかったでしょう」と語った。そういう母が生きた時代と、働く女性が当たり前の今。その間をつなぐ世代として、ハリスさんも私もいる。

 ハリスさんの経歴には、「サンフランシスコの地方検事を経て、2011年に黒人女性初のカリフォルニア州司法長官に就任。17年には黒人女性で2人目、インド系では初の連邦上院議員になった」などとある。「女性初の」がたくさんついた人生だと思う。私も、レベルはかなり違うが、「初の」とか「女性唯一の」とかとセットで語られることがしばしばあった。

 就職したのは1983年で、雇用機会均等法以前だった。86年に同法が施行されて数年経ち、ガラガラだった会社の女性用トイレが混んだことに衝撃を受けた記憶がある。つまり、働く女性が増える現場に立ち会った世代だ。とはいえ、女性が働き続ける環境は簡単には整わず、途中でやめる人も少なくなかった。だから比較的長い間、「女性初の」「女性唯一の」というところに位置することになった。

 するとどうなるか。その位置での振る舞い方に熟練してくる。私の場合は、

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