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フランスの再ロックダウンで書店閉鎖、『華氏451度』の世界に?

高まった「本屋を開けて」の声。パリ市長は「アマゾンで買わないで」

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

前回とは違うロックダウン

 フランスでは10月30日から再びロックダウン(都市封鎖)が始まった。前回は3月17日から5月11日までだから約5カ月半ぶり。9月後半からコロナの感染者数が急増し、10月17日にはようやく夜間外出禁止令が出されたが、時すでに遅し。医療崩壊は現実味を増すばかりとなり、あえなくまたロックダウンすることになった。

 とはいえ、国民はすでに勝手がわかっているためか緊迫した空気は流れなかった。前回見られた買い占め行動もほぼ消えた。少なくともパリ15区のスーパーでは、パスタも缶詰もトイレットペーパーもたっぷり残っていた。だが、再ロックダウンが始まる直前には、前回同様、パリから脱出する人が続出。前日の夕方は、パリを含むイル・ド・フランス地域圏で最高711キロの大渋滞を記録した。

パリのスーパー。前回のロックダウンと異なり、パスタの在庫もたくさん残っていたパリのスーパー。前回のロックダウンと異なり、パスタの在庫もたくさん残っていた=撮影・筆者
再ロックダウン前日の10月29日は夕方から地方へ脱出する車でパリと近郊で大渋滞ができた再ロックダウン前日の10月29日は夕方から地方へ脱出する車でパリと近郊で大渋滞ができた=撮影・筆者

 ロックダウンの内容は前回と比べるとやや緩めだ。大きな違いは高校生以下の子供がこれまで通り通学できること。しかし、これに関しては当初から生徒や教師の安全が確保できないとして批判が大きかった。政府から改善案が出されるも、学校の封鎖を試みる高校生と警察の間での小競り合いが続くなど緊張状態が続いている。

夜の拍手より保障を

パリ15区の公園。日中は多くの人が集っていた。
読書をする人の姿も。=撮影・筆者
パリ15区の公園。日中は多くの人が集っていた。読書をする人の姿も=撮影・筆者

 前回閉鎖された公園や森は開放されたが、こちらの措置は歓迎されている。5月のロックダウン解除後には、自然を求め多くの人が公園や森に押しかけニュースになった。たとえ短時間でも自然を感じることは、やはり人間の本質的な欲求らしい。筆者も最初のうちこそ何ともなかったが、1カ月が経つ頃にはさすがに気分が滅入ってきた。せめて近所の公園が開いていたらと思う。

 秋が深まる時期にスタートした再ロックダウンだが、今のフランスは日照時間が短く夕方から一気に物寂しい雰囲気になる。ロックダウン中は精神衛生にも気をつけないといけない。

SNS上には「私は20時に拍手はしないが、看護師に最低月300ユーロの賃金上昇を求む」などの主張が飛び交ったSNS上には「私は20時に拍手はしないが、看護師に最低月300ユーロの賃金上昇を求む」などの主張が飛び交った=筆者提供
 前回登場した医療関係者への謝意を示す「夜20時の拍手」は自然消滅している。代わりにツイッター上で、#a20hjereclame(20時に私は要求する)のハッシュタグがトレンド入り。“私は20時に拍手はしないが、この6年で削られた病院の1万3000床の復活求む”、“私は20時に拍手はしないが、看護師に最低月300ユーロ(約3万9000円)の賃金上昇を求む”というように、具体的な改善案が大喜利のようにいくつも書き込まれた。看護師側は「同情するより金をくれ」ではないけれど、実体のない感謝より形ある保障を求めており、国民も彼らに同情し、改善案を共有していた。

 人が集まる場所は基本的に扉が閉ざされた。レストラン、カフェ、バーも持ち帰りや配達以外は営業できない。しかし、社会生活に「必要不可欠」とみなされた店は営業ができる。例えば、食料品店、スーパー、タバコ屋(新聞や雑誌も販売)、薬屋、銀行、ペット用品店、情報機器関連の店、ガソリンスタンドなど。国民は通勤や通学、通院、買い物など必要不可欠な外出は、特例外出証明書を所持している限り認められる。健康維持のための散歩なら1日一度、半径1キロ、1時間以内ならできる。

書店を開けて!

 前回と同様、映画館、劇場、美術館、ライブハウス、書店などの文化関連の施設は一斉に休業となった。夜間外出禁止令が出ていたので、映画館や劇場など夜の営業があった場所はすでに打撃を受けていたが、再ロックダウンのせいで営業の息の根を完全に止められた形だ。

イランと中東文化を紹介するペルシャ専門書店「Librairie Perse en
Poche」。店員さんが手にする本はリアド・サトゥフの人気自伝的コミック『未来のアラブ人5』
イランと中東文化を紹介するペルシャ専門書店「Librairie Perse en Poche」。店員さんが手にする本はリアド・サトゥフの人気自伝的コミック『未来のアラブ人5』=撮影・筆者

 この中で注目を集めたのが書店である。

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