三浦俊章(みうら・としあき) ジャーナリスト
元朝日新聞記者。ワシントン特派員、テレビ朝日系列「報道ステーション」コメンテーター、日曜版GLOBE編集長、編集委員などを歴任。2022年に退社
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ホワイトハウスを去って3年10カ月。話題沸騰の著書のタイトルに込めた思いとは
政治家の回顧録のひとつの妙味は、その政治家が他の政治家をどう見たのか。人物評のおもしろさであろう。オバマ回顧録も例外ではない。
好意的に描かれているのはイギリスのキャメロン首相(2010~16年)である。
オバマ氏が最初にあったころは「40代前半で、若々しく、形式にこだわらない振る舞いを見せたが、それはよく考え抜いたものだった(あらゆる国際会議でキャメロンが最初にしたことは、上着を脱いでネクタイを緩めることである)。名門イートン校卒のキャメロンは問題を驚くほど深く理解し、言葉を巧みに操った。人生で逆境など味わったことのない人間が持つ、ゆったりとした自信にあふれていた。意見が対立するときでさえ、私は彼には好意を持った」
英語でいう、いわゆる「ケミストリー」(相性)が良かったということだろう。
いっぽう、不信に満ちた厳しい評価を下しているのは、ロシアのプーチン大統領(2000~2008年、2012年~)である。
オバマ氏は、プーチン大統領のような人物には、どこかで出会ったような奇妙な感覚を覚えた。側近にロシアの大統領の印象を聞かれたとき、「監獄を支配するボスに似ている。ただし、核兵器と国連安保理の拒否権を持っている点では違うがね」と答えた。
この発言は笑いを誘ったが、オバマ氏は回顧録でこう続ける。
「私は冗談でそういったのではない。プーチンが私に想起させるのは、かつてシカゴやニューヨークの都市政治を牛耳った連中だ。タフで世知に長けて非情な連中である。彼らは自分の強みをよく知り、自分たちの狭い経験の外の世界には決して出ない。親分子分関係、賄賂、ゆすり、詐欺、そして時には暴力をふるうことも、商売の正当な手段だとみなしている。プーチンにとってもそうだが、彼らにとって人生はゼロサムゲームだ。自分たちの仲間でない人とも取引はするが、結局、信頼はしない。自分だけで自分のためだけに行動する。そういう彼らの世界では、ためらいがないことや、権力の増大以外に高尚な志を持ち合わせないことは、欠点ではない。むしろ長所なのだ」
外国の指導者に対してこれほど辛辣な言葉が書かれたことがあっただろうか。
日本については、2009年11月の訪日に触れる形で、ほぼ1ページを割いているが、その大半は、当時の天皇皇后両陛下に会って深く感銘した思い出を克明に綴っているものだ。当時の鳩山由紀夫首相については、10行にも満たない。
「私がアジアに旅してから20年以上が経っていた。7日間のアジア歴訪は東京から始まった。私は東京で日米同盟の将来についてスピーチし、鳩山由紀夫首相と会談して経済危機、北朝鮮、沖縄の海兵隊基地の移転計画について話し合った。鳩山は不器用だが好感の持てる人物(A pleasant if awkward fellow)だった。
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