井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者
1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍、科学書などの編集を経て、現在は漫画配信サービスの編集長。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
「長いプロ野球の歴史における非日常として笑い飛ばそう」
2020年プロ野球のシーズンが(ほぼ)終わってしまいました。
ほかのエンタメ同様、コロナ禍のせいで来年はどうなるかわからないプロ野球を、いったいどうやって楽しんだらいいのか途方に暮れる昨今です。
そこで本欄では、プロ野球いじりの第一人者にして新刊『野球大喜利 ザ・パッション こんなプロ野球はイヤだ8』(徳間書店)を上梓した漫画家のカネシゲタカシ氏にインタビューを敢行(前回は以下)。
これからのプロ野球の楽しみ方と、「あの代表作」の裏側についてガッツリうかがいました!
――カネシゲタカシさんといえば2010年代の野球ネタ漫画の最高傑作『ベイスたん』の作者でもあります。ぜひその話をお聞かせ願いたく!
カネシゲタカシ氏(以下カネシゲ) ありがとうございます。話が「週刊イガワくん」に戻るんですけど(前稿)、井川慶選手が帰国するということで、スポーツナビさん本体での連載が終わったんです。代わりに「ブログ内で新連載を始めてください」という話になって。
――増刊号に移籍したんですね。
カネシゲ そんな感じですね。2012年のことなのですが、ちょうど横浜DeNAベイスターズ初代監督に中畑(清)さんが就任して、ちょっとしたブームになっていました。
――インフルエンザで最初に脱落したのが監督!みたいなニュースがあったような。
カネシゲ あれはキャンプ2日目でしたね。そんな感じでネタになるので、『週刊キヨシくん』っていう4コマ漫画を週に1回のペースで連載することになったんです。
――でもブログに週イチで4コマを載せても、正直なところ厳しいですよね。
カネシゲ ええ、僕もブログ管理画面を見られるので、「こんなに少ないアクセス数だと、すぐに打ち切りになるだろうな」と危機感を抱きました。そこで、自分が仕事として更新する日以外も、何かで更新しようと決めました。
――毎日更新ですか! でも原稿料は週1回の分しか出ないんですよね。
カネシゲ はい。だから、とにかく労力のかからないことをやろうと考えて、ベイスターズの勝ち星で育つブログペットという体(てい)の、はっきり言っちゃうと「たまごっち」のようなものを作ろうと。だったら毎回、画像1枚ですむじゃないかと。
――こうして『ベイスたん』が誕生したのですね! 原稿料なしの毎日連載だったとは。
カネシゲ 勝ったら、勝ち星を栄養として成長する。負けたら、しおれて「お腹すいたよ」となる。
――そして、あの年のベイスターズは負けまくって、ベイスたんが大変なことに……。
カネシゲ そうなんですよ、「ベイスたん」って検索の窓に入れると、関連ワードで「餓死」って出てきちゃうような(苦笑)。
――餓死寸前の描写があっても、まだベイスターズが負けてましたからね(苦笑)。
カネシゲ だから、ホームランでシュウマイを1個もらえるようにしようって、ちょっと途中で設定を変えました(笑)。そんなことをやってると、いつの間にかネットで火がついて、あれよあれよと評判になって。Twitterも開設してみようかなってやったら、1日でフォロワーが1万2000人になりました。
――それはすごいですね。
カネシゲ 要するに「バズった」んですね。そうなってくると持ち前のサービス精神というものがムクムクとわき上がって、1枚絵のつもりが2枚になり、2枚のつもりが4枚になり、最終的には1回の更新で15枚から20枚ぐらい絵を描かなければいけないように。
――普通に毎日更新のストーリー漫画になってましたね。
カネシゲ 大スペクタクルドラマに育ってしまうんです。そうなる前、2012年の6月ごろですかね、ベイスターズ球団からスポナビ編集部を介して連絡が入りました。「会いたい」っていうんですよ。
――えらいこっちゃ(笑)。負けまくっている球団をいじってたんだから、怒られる流れですよね。