2020年11月25日
日々情報に接しつつ、いま日韓間に大きな懸案はないかのように感じられる。だが、事態はきわめて深刻である。刻々と迫りくる両国間の破局を恐れなければならない。
焦眉の問題は、韓国大法院の判決(2018年10月30日)後に韓国で進む、日本企業の資産売却へ向けた動きである。今後いつそれが現実化するか分からない。
菅首相は10月26日の所信表明演説で、「〔韓国には〕わが国の一貫した立場に基づいて、適切な対応を強く求めていきます」と述べたが(2020年10月27日付、朝日新聞)、「一貫した立場」とは、賠償請求問題は1965年の日韓請求権協定によって解決済みであり、元徴用工に請求権行使を保障せんとする韓国の動きは「国際法違反」だという、日本政府の認識のことである。
この杓子定規な立場は、大法院判決について安倍首相(当時)が「国際法に照らして、あり得ない判断」とコメントし、また河野外相(当時)が「韓国政府が国際法違反の状態を野放しにせず……」と駐日大使に要求した事実(内海愛子他『日韓の歴史問題をどう読み解くか――徴用工・日本軍「慰安婦」・植民地支配』新日本出版社、29頁)とつながっている。
だが、「国際法違反」という日本側の言い分は、正しいのか? 否、元徴用工個人に請求権行使を認めることは、国際法違反ではない。むしろ国際法に違反しているのは、日本政府の側である。
日本政府は「国際法」というあいまいな言葉を使っているが、そこで念頭に置いているのは、日韓請求権協定であろうか。
だが同協定によってさえ、元徴用工が人権救済を求めて日本企業に賠償請求する権利は、放棄されていない。同協定を通じて放棄されたのは外交保護権であって、日本企業に対する個人の請求権ではないというのは、韓国大法院のみならず日本政府、最高裁の認識でもある。
あるいは、日本政府が「国際法違反」とくり返す際、「条約法に関するウィーン条約」を念頭においている可能性もある。その第26条には、「効力を有するすべての条約――ここでは日韓請求権協定(杉田注)――は、当事国を拘束し、当事国は、これらの条約を誠実に履行しなければならない」と規定されている。
だが、請求権協定に関わる上記の解釈において、日韓両政府に相違はないとすれば、韓国が同協定を「誠実に履行」していないと、つまり条約法条約第26条に、ひいては「国際法に違反している」と言うことはできない。
なるほど日本政府は、請求権問題は「解決済み」であると、しかも2000年頃より解釈を変え、個人の請求権は放棄されていないが裁判を通じて救済を求めることはできないと主張しており(後述)、その限り条約の解釈にズレが生じている。
だが解釈がズレる可能性は、協定自体が予想している(第3条、紛争の解決)。だから、それを度外視して、またそもそもズレを生んだ日本政府の解釈変更を不問に付したまま、「国際法違反」だと主張しても、国際的に通用しない。
では国際法違反はないのか。ある。違反しているのは、むしろ日本政府である。
ここで違反された「国際法」とは、(1)国際人道法であり、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください