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全米図書賞・柳美里『JR上野駅公園口』が迫る震災と地域への内省

長岡義幸 フリーランス記者

 私の郷里、福島県南相馬市小高区では、かつて新刊書店2店が併存していた。だが、東日本大震災と原発事故によって強制避難区域となり、書店はなくなってしまう。

 それから5年後の2016年、南相馬市原町区に移住していた作家の柳美里さんが小高区で書店「フルハウス」を開くと宣言した。どんな店をつくろうとしているのか、開店前の2017~18年に二度、柳さんを取材した。18年4月には開店に立ち会い、その後も折々に店を覗きに行った。ただ、今年はコロナ禍のため福島に帰れず、現在の様子を見られないのを心残りに思っていたところだった。

 そんなときに届いたビッグニュースである。アメリカでもっとも権威ある文学賞という「全米図書賞」の翻訳文学部門で11月18日(日本時間19日)、柳さんの小説『JR上野駅公園口』の英訳版がその賞に選ばれたというのだ。しかも、小高区と同じ南相馬市の鹿島区(旧八沢村)に生まれたという設定の主人公が登場する、地元そのものを描いた作品である。我がことのように嬉しくなった。

経営する書店で受賞の喜びを語る柳美里さん=2020年11月19日午後2時45分、福島県南相馬市小高区、佐々木達也撮影 20201119拡大店長を務める書店「フルハウス」で全米図書賞受賞を喜ぶ柳美里さん=2020年11月19日、福島県南相馬市小高区

 『JR上野駅公園口』は2014年の刊行時に読んでいた。出稼ぎ、ホームレス、天皇、震災……。曰く言い難い内容だった。最後には東京で亡くなった主人公が天空から津波に呑まれる孫娘を見るという、悲劇で終わってしまう。まったく出口のないストーリーだ。

『JR上野駅公園口』拡大柳美里『JR上野駅公園口』(河出文庫)
 でも、外部から原発事故の被災地という側面ばかりが強調されていた当地において、最後の場面で津波のみを描いた柳さんには、福島の沿岸部に暮らしていた人々のリアル(のひとつ)を表現しようとする意思を感じ取ることができた。

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筆者

長岡義幸

長岡義幸(ながおか・よしゆき) フリーランス記者

1962年生まれ、福島県小高町(現・南相馬市)出身。国立福島工業高等専門学校工業化学科卒業、早稲田大学第二文学部3年編入学後、中退(抹籍)。出版業界紙『新文化』記者を経てフリーランスに。出版流通・出版の自由・子どもの権利・労働などが主な関心分野。著書に『「本を売る」という仕事――書店を歩く』(潮出版社)、『マンガはなぜ規制されるのか――「有害」をめぐる半世紀の攻防』(平凡社新書)、『出版と自由――周縁から見た出版産業』(出版メディアパル)ほか。震災・原発事故関連の共著書に『除染労働』(三一書房)、『復興なんて、してません――3・11から5度目の春。15人の“いま”』(第三書館)なども。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです