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徴用工問題で、日本政府は民事事件に介入してはならない

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 いま日韓間で懸案となっているのは、韓国人元徴用工の提訴および韓国大法院の裁定である。それは、人道に反する被害を受けた人々の救済を求める切実な声と、それに応えようとする司法の反応である。

 日本政府はこれを「国際法違反」とくり返すが、日韓請求権協定締結(1965年)以降、現在にまでいたる日本側の対応(司法判断を含めて)こそ、国際人道法・国際人権法に違反している(下記前稿)。

日本、韓国両国間に新しい国交を開くための日韓基本条約や関係協定、議定書の調印式が1965年6月22日、首相官邸拡大日韓基本条約や日韓請求権協定などの調印式=1965年6月22日、首相官邸

 「個人の請求権は放棄されていない」という点で、現在、日韓両政府とも認識にズレはないのに、日本政府が司法を通じた救済を拒んでいる点が、しかも賠償を行うべき民間企業に対し、それを押し留めようと介入しているという事実が、特に問題にされるべきである。

 ここまでかたくなな姿勢を見せている点で、日本への信頼は、国際的にとうに地に落ちていると判断されよう。もちろん外務官僚は、以上の諸問題を踏まえているであろうが、内閣人事局を通じた統制によって過度な忖度が官僚に強いられる結果、首相を含む政府高官は、皆、基本的な情報から遠ざけられてしまい、「裸の王様」同然の状態に身を置いていると言わざるをえない。


筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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