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徴用工問題で、日本政府は民事事件に介入してはならない

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

日韓請求権協定自体が国際法違反である

 いや、日韓請求権協定それ自体が、すでに国際慣習法に違反していたと言わなければならない。

 当時の国際人道法・国際人権法(前稿「徴用工問題では、日本政府こそ「国際法違反」を犯している」)からしてもそう判断されるが、仮に違反していないと強弁できたとしても、かつて委任統治(国際連盟によって作られた制度)に関わる「ナミビア事件」について国際司法裁判所が示したように、国際文書は「その解釈の時に広く行き渡っている法制度全体の枠内で解釈され、適用されなければならない」というのが、今日の国際慣習法上の規範である(松井芳郎他『判例国際法』東信堂、275頁)。そして国際慣習法の発展は、前記のように目覚ましいのである。

2018年12月20日拡大韓国政府に対してソウル中央地裁に提訴した後、記者会見する弁護士(中央)と原告団の元徴用工 =2018年12月20日

 「基本原則と指針(国際人権法の重大な侵害・国際人道法の深刻な侵害の被害者の救済および賠償を受ける権利に関する基本原則と指針)」作りに大きな貢献をしたオランダの国際法学者テオ・ファン・ボーベン氏が、1949年のジュネーブ条約追加議定書に関連して述べたように、「実際に存在する慣習法をもう一度成文化したものであれば……それらの手続きは、1949年以前の出来事にも適用され(る)」(日本弁護士連合会編『世界に問われる日本の戦後処理②――戦争と人権、その法的検討』東方出版、33頁)と言わなければならない。

 つまり、「基本原則と指針」が国連人権委員会・国連総会で採択されたのが2005年のことだったとしても、それは2005年以前の出来事にも適用される。その40年前(1965年)の日韓請求権協定も、「基本原則と指針」から自由ではない。

 同協定は、第2条第1項において、両国(民)間の請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と記すが、被害者の救済・被害者に対する賠償がなされないかぎり、同協定は今日の国際法による評価にもはや耐えられない。つまり同協定によって賠償請求に関わる韓国の外交保護権が放棄させられた事実さえ、今日の国際慣習法によって問題とされうる。

日本政府がなすべきこと

 いま求められるのは、

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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