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【ヅカナビ】進化した『エル・アルコン −−鷹−−』

青池保子の人気漫画を舞台化、個性的な登場人物たちが息づくドラマに引き込まれた

中本千晶 演劇ジャーナリスト


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 星組梅田芸術劇場公演『エル・アルコン −−鷹−−』は青池保子の人気漫画を舞台化した作品だ。2007〜8年に初演され、タカラヅカには珍しいダーティーヒーローをトップスターの安蘭けいが魅力的に演じたことでも話題になった。

 じつは初演を観たときは展開が早くて、ついていくのが精一杯というのが正直な感想だった。そこで今回は、初演の映像を見直し、さらに原作の漫画も読破してから臨むことに。すると前回とは違ってストーリーにしっかり没入し胸打たれてしまった。礼真琴演じるティリアンの生き様はむしろ哀しく、切なかった。

 これは「予習」が功を奏したのか? いや、どうもそれだけではないような気がする。そこで今回のヅカナビでは、原作漫画とも比較しつつ、再演バージョンの何が私を没入させたかについて探ってみたいと思う。

ティリアンは最初主人公ではなかった

 原作の漫画は成り立ちがちょっとややこしい。最初に書かれたのが『七つの海七つの空』という作品で、こちらはルミナス・レッド・ベネディクト(キャプテン・レッド)が主人公なのだ。

 ところが、この作品に敵役として登場するティリアン・パーシモンの方に作者の青池保子氏が惚れ込んでしまった。そこで生まれたのが、ティリアンを主人公とする『エル・アルコン −−鷹−−』『テンペスト』だ。

 『七つの海七つの空』で描かれるのは、ティリアンの陰謀により父親を殺されたルミナスが、復讐を果たすためオックスフォードの学生から海賊「キャプテン・レッド」に身を転じ、ティリアン率いるスペイン無敵艦隊を打ち破るまでが描かれる。

 いっぽう『エル・アルコン −−鷹−−』で描かれるのはティリアンの生い立ちだ。幼い頃に父のように慕ったスペイン軍人ジェラード・ペルーを最終的に殺し、イギリス海軍で名を馳せる。また『テンペスト』で描かれるのは女海賊ギルダとの対決、そしてルミナスの父を陥れる顛末である。

 ざっと時系列で並べると『エル・アルコン −−鷹−−』『テンペスト』『七つの海七つの空』ということになる。タカラヅカ版もおおよそこの順番で3作品のエピソードを抜き出して並べ替え、ティリアンの生涯を描く形になっているのだ。

 とはいえ主たるエピソードはほとんど盛り込まれており、大きくカットされているのは『エル・アルコン −−鷹−−』の中の、ティリアンが唯一心を許す存在となる少年ニコラスとの交流と、陸軍のルーカス・エリオットとの対決の部分ぐらいではないだろうか。

 そう考えるとやはり「盛り過ぎ」感は否めない。だから、初演を観たときついていくのが大変だったのだ。さりとてティリアンの複雑な性格を描くためにはジェラード・ペルー、あるいは高慢な令嬢ペネロープ・ギャレットとのエピソードがはずせないのもわかる。原作を読んでみると、あの形に落ち着いたのも理解できてしまうのである。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

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