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吉田兄弟が贈る『三味線だけの世界』

伝統と革新で枠を超えて進化する

米満ゆうこ フリーライター


 日本が誇る津軽三味線奏者で、昨年デビュー20周年を迎えた吉田兄弟が12月10日(木)、新歌舞伎座で『吉田兄弟20周年 三味線だけの世界』を開く。吉田兄弟といえば、クラシックからロック、ポップス、ゲーム音楽、ヲタ芸まで幅広く様々なアーティストとコラボレーションし、邦楽の殻を打ち破り、三味線の可能性を追求してきた。先日、来阪した兄の良一郎が、新歌舞伎座でのコンサートや名曲『津軽じょんがら節』、今後に向けた新たな思いを取材会で話してくれた。

津軽三味線の可能性の引き出しを開けるのが僕らの役目

拡大吉田兄弟

 昨年はデビュー20周年にあたり、大阪ではバックバンドを従えた記念公演が大好評だった。「今回、新歌舞伎座でさせていただけるのをとてもうれしく思っています。僕はあの劇場の空間が好きで、和をやるにはピッタリの音色が響く。今までは、太鼓、尺八、ほかの三味線奏者を引き連れた和楽器バージョンや、バックにバンドが入るパターンで演奏したりしていたんですが、あえて今回は、三味線だけでどこまで可能性を見せられるかに焦点をあてました」。

 タイトルの『三味線だけの世界』は二人の根幹を成すものだという。「5歳から一緒にやってきた僕たちにとっての原点。最初から最後まで完全に二人なので、僕らの修業のような公演だと思ってください(笑)。バンドがいればイントロなどで休めるんですが、二人で1時間半以上のコンサートをやるには、この乗り、このテンポだなというのを常に感じて、ベストじゃなきゃいけない。そこが難しいですね」。

 当日は、二人のオリジナル曲やソロのほか、バンドでやっている曲をあえて二人で演奏するなど色んな世界観を作っていくそうだ。「僕と弟のカラーの違いははっきりとしていて、音色や響きも違う。僕はどっちかというとメロディで攻めていく感じ。弟はリズムやタテ乗りで攻めていく。バンドでギターやキーボードが入ると、ロックだぜという雰囲気はすぐに伝わると思うんですよ。でもそれだけではなく、三味線だけのコンサートをやってみたくなる。それも三味線の伝統だけではなく、革新的な部分も見せたい。その両面があってこそ、吉田兄弟だと思うんですよ。それができるアーティストは少ないと思います。津軽三味線は日本の伝統楽器という枠を超えて進化していると思うんです。だから常に色んな引き出しを持っていたいし、そこを開けるのが僕たちの役目です」。

『津軽じょんがら節』は兄弟でじょっぱり

拡大吉田良一郎

 吉田兄弟のコンサートではおなじみの『津軽じょんがら節』は、今回もクライマックスになるという。二人で約18分もある大曲は、一音一音が体に染みわたり、静謐さと激しさが拮抗し、思わず息を殺して聞き入ってしまう。「僕らはオリジナル曲で攻めていますが、でも原点はここだよというのが最大に生かされた曲。20年間、ソロの部分はアドリブですから、お客さんとのキャッチボールで生まれる。大阪では毎年公演しているので、リピーターのお客さんが『ここで!』と拍手してくれる。僕たちも安心してフレーズで応えられるんです」。

 津軽を代表する民謡のこの曲は、何をイメージしながら弾いているのだろう。「青森や雪国の厳しさが自然と出てくるんですよね。僕は北海道出身なんですが、子どもながらに、吹雪の中で何かあったら確実に死ぬなというのは感じていたんですよ。雪は上から降ってきますが、下からも舞うんです。生きるか死ぬかの生命力を感じる。それをどう音色に重ね合わせて弾くか。そこがリンクした時に、ギュッと自分のゾーンに入っていい演奏ができる。いい意味で、お客さんを無視するぐらいグッと世界に入れるのがベストだと思っていつも弾いています。ゾーンは楽しくもありますが、曲の難しさも含めて厳しさと両方の面が出てきますね」。

 普段の楽曲は弟の健一と共存して弾いているが、じょんがら節では弟より拍手が欲しいという欲望も出てくるそうだ。「アハハハッ。ライバルとして負けるかと意地を張るのは、津軽でじょっぱりというんですが、その精神ですね。もともと津軽三味線は盲目の方が他人の玄関先で弾いて、お金やお米をもらっていたというところから始まっていますから。盛り上げて派手に演奏する。その派手という言葉も津軽三味線から生まれたと言われているんですよ。人真似ではいけない、人に勝たなきゃいけないというところが曲に含まれていると思います」。

 大曲を弾いた後、二人は精魂尽き果てたように見えるが、その後も数曲演奏する時があり、よく余力が残っているなと驚かされる。「いや、本当は限界です(笑)。その限界が楽しいんですよね。手も動かなくなり、体も動かなくなり、足は、動いてないように見えますが、フレーズによっては動いているんです。それも動かなくなる。ほんと、全身で演奏しているんですよ。そこが楽しくて魅力を感じる。三味線にはゴールがないんです」。

 世界各地で公演を続けてきた吉田兄弟。反応は国によって様々だという。「『津軽じょんがら節』を弾くと、海外の人には吹雪や荒波という日本特有のイメージはない。でもイメージがないぶん、やりやすくもあり難しくもある。最後にあの曲をやると、『なんだあれは』『今まで聞いたことない』というような反応が返ってくるんです。びっくりしたのは、スペインでじょんがら節を演奏した時、『ジャカジャーン』と終わったら、お客さんから『オレィ♪』というかけ声が返ってきたんです(一同笑)。スペイン人、いいですよね(笑)。フラメンコギターのように、パッションが通じたんだなとすごく感動しました。海外の方はそのまま表現するし、生々しいです。僕たちが調子が悪いと、お客さんの反応も悪い。日本人は、ここで拍手と気を使ってくれるところがありますよね」。

一音一音をより追求していく

拡大吉田良一郎

 今年はコロナ禍で世界中でのプロモーションや公演が中止になった。「多くの人がライブ配信を始めて、僕たちもやりましたけど、演奏もトークもお客さんとのキャッチボールが全くできないんですよね。津軽三味線はいいプレイをして拍手をもらって、いいプレイで返すというのがないとつらい。それは強く感じました。ステージに立ちたいという欲求と、家で練習していてもコンサートがないから、何を弾けば、どこに向かって練習すればいいのか分からない。9月からお客さんを50%ぐらい入れてコンサートを再開しましたが、お客さんの反応がやっぱり渋いというか、静かですね。大声を出してはダメなので仕方ないんですが、これは僕たちからほどいていかないと難しいぞと。この状況に慣れるための練習やドライブ感が必要です」。

 とはいえ、今年でデビュー21年を迎え、音色は昔に比べて確実に変わり深化してきている。「全然違いますね。21歳でデビューして、勢いで弾いてきて、20代後半に『ちょっとこれでは厳しいな』とその限界を感じ始めた。そこから、一音一音をより追求していこうと。今まではスピードと乗りと若さで勝負してたと思うんです。それでメディアに取り上げてもらっていた部分もあった。今は、一音一音を見つめ直すところから始めています。それに三味線の構え方も、ロック調とじょんがら節では微妙に違うんですよ。袴で見えないかもしれないですが、足が内股になっていたりする時もある(笑)。曲によって構え方や心の持ちようも違うから面白いんですよね」。

自らコラボをオファーした吉田劇場が始動

 また、新たに世界的ギタリストのMIYAVIや、ヒップホップバンドCreepy Nutsら、全く違うジャンルのアーティストとコラボレーションする吉田劇場を始動させた。「今までコラボレーションは多くの方とやってきましたが、実は受け身で相手からのオファーがあってのことだったんです。でも、この20周年を機に、僕たちからオファーをしてやっていこうと思いが変わりましたね。コラボは難しくて、三味線が生きなきゃ意味がないんですよ。例えば、三味線で『情熱大陸』『ルパン三世』を弾くのは、皆、やっているし、メロディを弾くだけでは三味線は死ぬんです。僕らは津軽三味線らしさ、三味線が生きるフレーズをどう出すかなんです。ギターっぽい音を出すなら三味線でやる意味がない。20年を超えた今は、色んなジャンルの方と可能性を見つけるためにこちらからオファーしていきたい。ある意味、既成概念をぶっ壊して挑戦していこうと思うんです」。

 吉田劇場としても世界を目指すのか。「例えばMIYAVIさんだったらアメリカでガンガンやってらっしゃるから、すぐに行けると思うんですよ。もちろん、MIYAVIさんが『うん』というかはまだ聞いてないですが(笑)、コロナが収まって、日本のアーティストが世界にという時には、すぐに出られるように準備はしておきたいです。僕たちが30周年、40周年に向かっていくために、受け身ではなく、さらに攻めていきたい。年もだいぶ取ってきましたから、いつまで指が速く動くか分からないんで(笑)」。

 その真っすぐな情熱と意欲は増すばかりだ。「三味線は不器用な楽器なんですよ。3本しか弦はないし、ギターのようにフレットがあるわけでもない。正確な音を出すのは大変で、皮はすぐ破けるし、弦も切れる(笑)。本当にメンテナンスも含めて大変なんですけど、それゆえの日本ならではの良さというのが三味線には詰まっているんです。その不器用さがあえて武器で、勝負するところだと思っています」。

◆公演情報◆
『吉田兄弟20周年記念 三味線だけの世界』
2020年12月10日(木) 大阪・新歌舞伎座
公式ホームページ
吉田兄弟公式ホームページ

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筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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