NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会理事・川口有美子さんに聞く
2020年12月01日
ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性(当時51)からSNSを通じて依頼を受けた医師2人が、女性に薬物を投与して殺害したとして、京都府警は2020年7月23日、2人を嘱託殺人の疑いで逮捕した(8月13日に京都地検は2人を起訴、10月26日、京都地裁で第1回公判前整理手続きが行われた)。
医師が難病の女性を死にいたらしめたこの事件について、ALS患者の家族はどう見るのか。連載の第5回はALSを患った家族を自宅で看取った川口有美子さん(NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会副理事長、有限会社ケアサポートモモ代表取締役)に登場していただいた。
川口有美子 NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会副理事長、有限会社ケアサポートモモ代表取締役。2013年、立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程修了。著書に『末期を超えて――ALSとすべての難病にかかわる人たちへ』(青土社)、『逝かない身体――ALS的日常を生きる』(医学書院、第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞)など。
――川口さんは、ALSを患ったお母さんを約12年にわたって看てきました。
川口 母の病状の進行は早いほうだったと思います。毎日何かができなくなり、体を動かせなくなっていきました。TLS(Totally Locked-in State:完全閉じ込め状態)になったのは発症のほぼ4年後です。言語的な会話はできなくなりましたが、その後も母の体はいろいろなことを家族や介護者に語り続けてくれました。
川口 さくら会ではヘルパーの養成事業や障害者、難病の人のQOL(生活の質)の改善のための研究事業などを、ケアサポートモモではALSを中心とする難病患者へのヘルパー派遣事業を行っています。現在、人工呼吸器を付けて在宅療養をされている約20人のもとに、ヘルパーを派遣しています。
――さくら会は安楽死法制化に反対していますが、京都の事件をどう見ますか。
川口 報道によると、彼女が拠り所としていたツイッターのグループは、「死ぬこと」に対して同じ考えを持つ人が集まってきていたようです。詳細は分かりませんが、「死にたい」「死んだ方がマシ」という訴えに、「その気持ち分かるよ」「つらいね、かわいそう」という言葉が返ってくる。そういうやりとりのなかで、死にたいという気持ちが強くなっていったのではないかと感じました。
彼女がもし、長生きしている患者さんたちのネットワークにうまくつながることができていたら、状況は変わっていたかもしれない。生存する方向に導かれていた可能性があり、とても残念です。
――安楽死は反対という考えは以前から持っていたものですか。
川口 いえ、昔はむしろ賛成でした。べったり母の介護をしていたときは、死よりほかに母を楽にする方法はないと考え、どうしたら安らかに死なせられるか、その方法を探していたくらいです。当時は「安楽死」という言葉がとても甘美なものとして聞こえていましたし、「死ぬ権利」もあると思っていました。
のちに、そういう状態の私は母にとって一番の危険人物であり、私を母から離さないと母の命が危ないということが分かりました。私が母に手をかけないですんだのは、大勢の方の手助けがあったからです。
――気持ちが変わったのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
川口 そうですね。一つは、合法化のための勉強をしていたら、安楽死ほど危ないものはないと分かったから。もう一つは、母の介護に公的介護制度を使えるようになって、私に時間ができたからです。母も「娘はキツいけど、ヘルパーはやさしい」と、ヘルパーさんにお願いするようになった。そこで私も母から解放されました。
解放されて母の様子を客観的に見ると、母はかわいそうな人には見えなかった。それで、自分の親に対して子が「死んだ方がマシ」と思うのは不遜で、それほどひどいことはないと気付いたんです。どんな状態でも母の命を否定せずに、私も一緒に生きようと決意しました。
――安楽死を肯定する人のなかには、「安楽死はいつでも死ねる手段なので、逆に死ぬことを止める役割がある」という人もいるようです。
川口 ALSの患者さんもよく言います。「安楽死が合法化されたら、安心して生きていける」と。でも、その考えは危険なのではないかと思っています。
――危険、ですか?
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