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戒名とお金をめぐる違和感――あの世にも身分制度はあるのか?

[4]戒名のランクは封建社会の名残

薄井秀夫 (株)寺院デザイン代表取締役

遅ればせながら、死んでから仏教徒に

 この違和感について考えるにあたって、基本的な戒名の解説をしたい。

 宗教的制度としての戒名である。

 ちなみに戒名という名称を使わず、法名という名称を使う宗派もある。名称だけでなく、その意味合いも微妙に異なるが、ここでは特にことわりをいれない限り、両方を含めて戒名と呼ぶ。

 戒名をひと言で言うと、仏教徒になるにあたって、つけられる名前である。それゆえ、本来は生きているうちにつけるものとされている。だから僧侶は全員、戒名を持っている。

 それがなぜ死んでからつけられるかというと、ほとんどの日本人が、正式に仏教徒になる儀式を行っていないからである。

「授戒の儀式」花会式始まる 薬師寺 /奈良県 2007年拡大奈良県の薬師寺でおこなわれた「授戒の儀式」花会式=2007年

 キリスト教の場合、入信する時に洗礼という儀式が行われ、クリスチャンネームが与えられる。それとほぼ同じ意味合いであるが、仏教の場合は、仏教徒になる時に授戒(じゅかい)という儀式が行われ、戒名が与えられる。もちろん、これは生きているうちに仏教徒になる場合である。

 しかし現実は、9割近くの日本人が仏教で葬式をあげているのにもかかわらず、この授戒を受けて戒名を持っている人はほとんどいない。

 そのため仏教徒として葬式をあげるために、遅ればせながら亡くなった時に授戒をして、戒名を与えるのである。

 仏教の教義上、無事あの世に送りとどけるのに必要な段取りということなのだ。

戒って何?

 ちなみに戒名という言葉であるが、戒という文字が入っている。

 先ほど、授戒という儀式のことを、戒名を与える儀式と述べたが、正しくは戒を与える儀式である。

 戒というのは、仏教徒として守るべき戒(いまし)めのことを言う。導師(儀式の主宰者)から、いくつかの戒を授かり、「今後は戒を守ります」と誓うことで仏教徒になることができる。そして戒を授かる時に、名付けられるのが戒名ということになる。

 戒と言っても、イメージがわかない人も多いと思うので、いくつかの例を示す。与えられる戒は宗派によって異なるが、代表的なのは三帰戒(さんきかい)、十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)などだ。

 三帰戒は、仏に帰依(きえ)します、法(教え)に帰依します、僧に帰依します、の三つである。「帰依」というのは、信じてより所にするという意味だ。つまり仏・法・僧を信じ、より所とします、ということになる。

 また十重禁戒は、生き物を殺さない、盗みをしない、浮気をしない、嘘をつかない、お酒を飲まない、他人の過ちを非難しない、自慢をしたり他人を非難したりしない、他の人に施しを惜しまない、怒らない、仏法僧を誹らない、となる。

 三帰戒は、現代人の感覚ではあまり戒という感じがしないが、十重禁戒はすべて「○○しない」という内容なので戒としてわかりやすい。

 また、浄土真宗のように戒が無い宗派もあり、そうした宗派では、戒名と呼ばず、法名という名称が使われる。

 お気づきだと思うが、重要なのは戒名ではなくて、この戒である。授戒というのは、戒を授かり、「その戒を守ります」と誓いをたてる儀式なのだ。仏教では、この戒を授かって初めて仏教徒になれるとされている。

 つまり死後に戒名をいただくというのは、遅ればせながら戒を授かって、正式に仏教徒になるということを意味する。もちろん、死んでから戒を授かって何の意味があるのかという向きもあると思うが、ここではそれは置いておく。

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筆者

薄井秀夫

薄井秀夫(うすい・ひでお) (株)寺院デザイン代表取締役

1966年生まれ。東北大学文学部卒業(宗教学専攻)。中外日報社、鎌倉新書を経て、2007年、寺の運営コンサルティング会社「寺院デザイン」を設立。著書に『葬祭業界で働く』(共著、ぺりかん社)、 『10年後のお寺をデザインする――寺院仏教のススメ』(鎌倉新書)、『人の集まるお寺のつくり方――檀家の帰属意識をどう高めるか、新しい人々をどう惹きつけるか』(鎌倉新書)など。noteにてマガジン「葬式仏教の研究」を連載中。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです