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演出家の元吉庸泰と荻田浩一が競作、ミュージカル『EDGES-エッジズ-』/上

日本初演、コロナ禍での公演中止を経て12月上演

大原薫 演劇ライター


 ミュージカル『EDGES-エッジズ-』が日本初演される。

 ブロードウェイで大ヒット中のミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』や映画『ラ・ラ・ランド』、『グレイテスト・ショーマン』の楽曲を手掛けた作詞・作曲家デュオ、ベンジ・パセック&ジャスティン・ポールのコンビが学生時代に生み出したデビュー作。人生の決断にゆれる4人の若者たちの心情をみずみずしく描き出す作品だ。あるテーマや物語に基づき、通常は同じ作詞家・作曲家による1曲完結のオムニバス形式で綴る「ソングサイクル」というスタイルで作られている。

 2020年4~7月に日本初演となる上演を3チームの競作で予定していたが、新型コロナウイルスの猛威により全公演が中止となった。2020年12月、新たな形で2組の演出家×音楽家×出演者チームによる上演が決定。

 チームBLUEで演出する元吉庸泰、チームREDで演出する荻田浩一に本作にかける意気込みやキャストについて、コロナ禍での上演の在り方について話を伺った。

パセック&ポールが自由な遊び心で生み出した作品

拡大元吉庸泰(左)・荻田浩一

――『EDGES』という作品のどんなところに魅力を感じましたか。

元吉:ソングサイクル・ミュージカルで、曲ごとに1話完結している前提なのですが、最初に聞いたときは「お話を聞いてよ」と訴えかけてくる印象が強かったんです。作詞・作曲の二人(パセック&ポール)が「自分たちは何者なのかわからないけど、でもそんなことはどうでもいい」みたいな(笑)ちょっとシニカルなところも入れながらも、理想に手を伸ばしていく。今の彼らの曲とは違う若々しさを感じたんですね。それも「剛速球を投げるけれど、キャッチも打ち返しもしなくてもいい」というような挑戦的なイメージがすべての曲にあって。今回上演するのは再演のときの曲なんです。

荻田:今回は2007年に上演されたものをベースにしています。

元吉:2005年の初演版は全体的にキャッチーだった。2007年版はキャッチーというよりも全体に「僕らは世の中をなめてます」みたいな挑戦的なところを歌いつないで遊んでいる感覚。従来のミュージカルにはまったくない面白さを感じました。ソングサイクル・ミュージカルはテーマが色濃く出るものだけれど、この作品から感じるテーマは薄味に感じて。そこに味付けするのは上演するお前たちだという彼らからのメッセージを感じたんです。演出するからには塩コショウをするじゃないですか。

荻田:濃い味でね(笑)。僕が魅力に感じるのは、やはり楽曲の良さですね。ソングサイクルというスタイルで1曲1曲がオムニバスになりますが、曲に反映されているストーリーはわりと他愛もないことが多い。日常生活のものだったりして、深刻な物語はあまりないんです。最初聞いた時は肩に力が入らず、するっと聞けた。でも、聞いているうちにやみつきになるフレーズやついつい口ずさんでしまうメロデイがあって、それは楽曲自体にきらめきがあるんだなと思います。若い頃に作って時間に余裕があったのかもしれないけれど、彼らなりの自由な遊びで作った作品かなと思う。窮屈じゃないというか。

 その分、僕らも自由に遊ばなければ、この作品の魅力がきっと出せないんだろうなと思って。もちろん真面目に稽古しているんですけど、歌稽古では普段あまり言わないような「好きに歌って」ということを言ったりしています。歌い手がシンガーソングライターのように自分が思っていることを歌っているように聞こえないといけない作品なので、お芝居をすると言うよりもキャラクターを明確にしたい。一つのドラマを歌い手の中で作っていただいて聞かせるものにしたいと思っています。それはスタンダップコメディに通じるものがあるかもしれません。僕が稽古でよく言っているのは、「綾小路きみまろさんのように」と。

元吉:あははは。その言葉いただきました(笑)。

荻田:自由な遊び心の楽しさにあふれる楽曲を歌い手が遊んで、お客様も心の中で遊んでいただけたらいいかなと思っています。

音楽でもありコンサートでもあり演劇でもある

――1曲完結のオムニバススタイルを紡ぐソングサイクル・ミュージカルということで、どのように取り組んでいらっしゃいますか。

元吉:今回意識しているのは、ミュージカルと音楽劇の違いということ。ミュージカルは入り口から入って外に出るとき、何かが変わっていたり、関係性や時間が経過していたりするんです。音楽劇の場合は、入り口と出口がほぼ一緒という違いがあると思います。今回、ミュージカルと銘打つからには、曲に入ってから終わるまでに何かが変わっていないとならないんですね。先ほども申し上げたとおり、ソングサイクル・ミュージカルは明確なテーマがある作品が多いですが、この作品はちょっと違う。

荻田:脈絡がないというか。よく言うとカラフルで、盛り合わせを食べる美味しさがある作品。

元吉:なるほど。

荻田:歌に特化しているという意味では、今回はなるべく歌に重点を置くべきだと思っています。ただ歌うだけで、「声がいいね、音程が合ってるね」となってしまったらつまらない。歌い手が自分の物語として、一曲の主として歌を消化することが必要だなと思うんです。僕はコンサート寄りに作っていて、朗読劇のようなイメージで、動きを封じたうえで語ることに特化した方がいいのではないかと思っています。でも、皆さん役者だから、ただ立って歌うというよりは、勝手に動いていきますね(笑)。チームREDは全編ハンドマイクなんです。

元吉:あっ、そうなんですか? 素敵!

荻田:元吉さんとはご縁があっていろんな公演でご一緒したり、二人で朗読劇の公演を上演したりしたので、「こんなことを考えているかな」ということがなんとなく理解できているかなと思うんです。音楽でもありコンサートでもあり演劇でもあるというこの作品でどう整合性を取っていくか、二人とも考えているんじゃないかと思う。

元吉:比重とバランスですね。

◆公演情報◆
拡大ミュージカル『EDGES-エッジズ-』
ミュージカル『EDGES-エッジズ-』
作:ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール
会場:新国立劇場 中劇場
主催/企画・製作 シーエイティプロデュース
公式HP
 
[チームBLUE]
12月3日(木)~6日(日)
演出:元吉庸泰
音楽監督:園田 涼
出演:太田基裕 矢田悠祐 増田有華 菜々香
演奏
ピアノ:松井トモコ シンセサイザー:桑原まこ
パーカッション:野崎めぐみ/吉田開 ギター:大月文太
[チームRED]
12月7日(月)~10日(木)
演出:荻田浩一
音楽監督:奥村健介
出演:林 翔太 藤岡正明 実咲凜音 梅田彩佳
演奏
ピアノ:中原裕章 ギター:YUTAKA ベース:瀬戸圭介 ドラム:李令貴
 
〈元吉庸泰プロフィル〉
 劇団「エムキチビート」主宰。自身の劇団の全公演の脚本、演出をしつつ、商業公演の演出も請け負う。演出の幅はバーでの公演からミュージカルまで多岐に渡る。教育機関での演技コーチングなども請け負う。その場に立つ俳優の実感を、空間演出により最大限に引き出す手法に定評がある。鴻上尚史主宰の「虚構の劇団」作品をはじめ、板垣恭一、深作健太、辻仁成、鈴木裕美、小林香、西田シャトナーなど第一線で活躍する演出家の演出助手も務める。
オフィシャルtwitter
オフィシャルブログ
 
〈荻田浩一プロフィル〉
 1997年、宝塚歌劇団『夜明けの天使たち』で演出家デビュー。2008年の退団までに数々の名作を生み出し、繊細かつ甘美な独自の美学を持った作風で高い評価を得た。2004年『ロマンチカ宝塚’04~ドルチェ・ヴィータ!~』で文化庁芸術祭演劇部門優秀賞を受賞。在団中から『アルジャーノンに花束を』『蜘蛛女のキス』『傾く首~モディリアーニの折れた絵筆~』など外部の作品を手がける機会も多く、2008年宝塚歌劇団を退団後は、ストレートプレイ・ミュージカル・ショーなど幅広く活躍中。
公式ホームページ

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

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