~見えない洞窟の中での過ごし方~
2020年12月07日
第3波が来ている。誰がどう見ても新型コロナウイルスの新規感染者数は増加している。そのデータの勢いは、日本国中が息を潜めていた春の緊急事態宣言の期間のそれがむしろ小さく見えるほどである。しかし、Go To キャンペーンはそのまま続き、西村経済再生大臣は政府分科会会長の尾身氏の発言を引用し「今後の感染者数は、神のみぞ知る」と言う状況だ。
この先どうなるのか、世界中が不安である。しかも、この状況がいつまで続くのかもわからない。行き先不透明なベールに地球全体が覆われている。逃げ場はどこにもない。
誰を責める訳にもいかない。この不安に渦巻く自らの心を整えることができるのは、実は「自分しかいない」のである。私はこのことを20年来、タイ仏教に触れることから学んできた。そして、この方法を整理して私たちに伝えてくれていたのが、他でもない「仏陀」なのである。
一般教養レベルでは、タイやミャンマーなどで継承されているのが上座部仏教、日本や中国は大乗仏教ということは皆知っていることかと思う。
しかし、上座部仏教の本質をどこまで理解しているだろうか。やはり日本で生まれ育っている私たちには知らず知らずのうちに仏教ワールドは大乗仏教のそれとして理解されている。このことを自分自身がタイ仏教を学ぶなかで身をもって体験している。仏教学者の佐々木閑先生によれば、もう全く別物と言ってよいほどに、である。(『別冊100分de名著 集中講義 大乗仏教――こうしてブッダの教えは変容した』)
今、なぜ「仏陀の教え」が私たちに必要と考えるか、まずわかりやすい例から紹介していきたいと思う。
2018年7月、世界中に流れたニュースであるので、覚えている人もいるだろう。タイのサッカーチームの少年12名(11~16歳)とコーチ(25歳)が横長の洞窟の入り口から約5キロのところまで行ったときに水位が急に上がってきて、そのまま出られなくなった事件である。救出されたのは、洞窟に入った日から数えて18日目のこと。2週間以上も真っ暗な中に閉じ込められていたのである。
彼らが救出されたときに映し出された映像を見て、「あれ? あんなににこやかにしていられるのはなぜだろう」と思った人もいるのではないだろうか。想像してみてほしい。自分が光も何もない狭い洞窟の中で、迫りくる水を目の前に見ながらいつ助かるともわからない全く行き先不透明な状況で、平静さを保っていられるだろうか。病院のMRI検査ですら「狭い空間を想像するだけで」恐怖でいっぱいになり一度は予約を直前にキャンセルしてしまった私は、考えるだけで自分があの状況に置かれたらと考えるだけで身の毛がよだつ思いである。
18日もの間、彼らはどうやって気持ちを平静に保っていられたのだろうか? 日本では救出劇ばかりがクローズアップされ、この疑問の答えは得られなかったが、その謎をタイ在住の仏教研究者の浦崎雅代氏から教えてもらい、「やっぱり」と思った。
彼らを支えたものこそ、
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