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必見!『Mank/マンク』――フィンチャー監督の『市民ケーン』製作秘話

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 『ファイト・クラブ』、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』、『ドラゴン・タトゥーの女』などで知られるデヴィッド・フィンチャー。今やアメリカ映画を代表する実力派監督の一人だが、『ゴーン・ガール』以来6年ぶりの待望久しい彼の新作、『Mank/マンク』がついに封切られた。作家性の強いフィンチャーらしい、映画技法および映画史へのこだわりに貫かれたモノクロの傑作だ(製作は、こんにち映画づくりの最先端の一角を担うNetflixで、12月4日より動画配信中)。

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 物語は、なんと“呪われた天才”オーソン・ウェルズ監督が自作自演した、映画史上の巨大な異物ともいうべき怪傑作、『市民ケーン』(1941)の製作秘話だ。ただし、主人公はオーソン・ウェルズではなく、ウェルズらと共同で脚本を書いたマンクこと、ハーマン・J・マンキーウィッツ(ゲイリー・オールドマン)。アルコール依存症に苦しんではいたが、筋金入りの名脚本家であった。

 そしてマンクをめぐる、このノワールで奇怪な伝記映画の最大の見どころは、マンクと、オーソン・ウェルズ(トム・バーク)、当時の大物プロデューサーら、さらにはケーンの実在のモデルである新聞王、かのウィリアム・ランドルフ・ハースト(チャールズ・ダンス)、その愛人のマリオン・デイヴィス(アマンダ・サイフレッド)らが織りなす陰影豊かなドラマである。

『市民ケーン』というスキャンダル

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Citizen_Kane_poster,_1941_(Style_B,_unrestored).jpgオーソン・ウェルズ監督『市民ケーン』(1941年)のポスター https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Citizen_Kane_poster,_1941_(Style_B,_unrestored).jpg
 ここで、『市民ケーン』についてざっと触れておこう(『市民ケーン』を観ておけば『Mank/マンク』をいっそう楽しめるだろう)。

 新聞王チャールズ・フォスター・ケーン(オーソン・ウェルズ)の生涯を複数の人物の視点や証言によって描くこの映画では、荒廃した大邸宅「ザナドゥ城」でのケーンの死の場面(1940=作中の現在)から、さまざまな過去へとフラッシュバックが繰り返され、多くの焦点人物やナレーターが入れ替わり立ち代わり登場する。つまり、ケーンの生涯は年代順にではなく、時間をばらばらにする複雑な話法で語られるのだ。

 加えて、画面設計もめくるめく視覚的装飾性に満ち満ちている。たとえば、前景から後景まで画面のすべてに焦点が合うパン・フォーカス(深焦点)、広間の天井が大きく映りこむ極端なロー・アングル、などなどだが、このような破天荒でバロック的な作風は観客を混乱させ、よって興行成績は振るわず、『市民ケーン』はハリウッド史上でもまれに見るスキャンダルとなった(あまつさえ、コミュニストともファシストとも見なされた――「市民ケーン」と自称した――主人公の人物像は、明確な像を結ばず曖昧なまま映画は終わるが、こうした意図された多面的な人物造形も、当時の観客の不興を買った。しかし後年、本作は極めて高く評価され、しばしば映画史上のベストワンに選ばれている)。

 スキャンダルといえば、ケーンの愛人でのちに彼の2番目の妻となるスーザン(ドロシー・カミンゴア)を歌手デビューさせようとする悲喜劇的なエピソードは、醜聞そのものとなった。つまりその一連は、前述のケーンのモデル、ウィリアム・ランドルフ・ハーストにマリオン・デイヴィスという元女優の愛人がいることを暴き、さらにハーストが彼女を女優として再デビューさせようとした事実を戯画的に描いたのである。

 そればかりか、臨終のさいにケーンがつぶやく謎の言葉、「バラのつぼみ」は

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