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宅八郎さんの死去・トランプの敗北・ポストモダニズムの終焉

「真実は存在せず、すべてが許される」時代をどう生きる

香山リカ 精神科医、立教大学現代心理学部教授

心の中で、「もうこの人にかかわるのはやめよう」と……

2007年、渋谷区長選に立候補した時の宅八郎さん拡大2007年、渋谷区長選に立候補した時の宅八郎さん

 矢野くん、つまり宅八郎さんに会ったのは、私が「ほぼ本名、ときどき香山リカ」として編集作業やコラム書きをしていた1983年か84年だったと思う。誰にどう紹介されたかは覚えていないが、彼も私と同じように雑誌編集の手伝いやコラム執筆をしている、と言っていた。私より2歳年下ということだったが、細身で洗練された黒いシャツに身を包んだ彼はもっと年少の美大生のように見えた。

 それからそれほど親しくしていたわけではないが、いろいろな場で顔を合わせる機会があり、お互い当時流行っていた日本のテクノ・ポップ好きということもあって、情報交換などをしたと思う。しかし、医学部最終学年を迎えて実習や国家試験対策などをしなければならなかったにもかかわらず『HEAVEN』の編集や原稿執筆がいよいよ忙しくなり、「これじゃ医者になれないかも。どうしよう」と迷っていた1985年、あるとき矢野くんは私にポツリとこう言ったのだ。

 「三軒茶屋のマンション、いいところですね。ゴミ置き場は裏口あたりにあって、収集は〇曜日なんですね……」

 この言葉が何を意味していたのかは、本当のところはわからない。ただ当時、私は三軒茶屋に住んでいたのはたしかで、ゴミ収集の曜日もあたっていた。彼は私の自宅を知っているのだろうか。もしかすると、跡をつけられたのではないか。もしかするとマンションのゴミ置き場に潜入して貼り紙を見たり、これは想像したくもないが、

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筆者

香山リカ

香山リカ(かやま・りか) 精神科医、立教大学現代心理学部教授

1960年、北海道生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『人生が劇的に変わるスロー思考入門』(ビジネス社)、『半知性主義でいこう――戦争ができる国の新しい生き方』(朝日新書)など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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