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三浦春馬の夢を叶えなかった日本のエンターテイメント界

唯一無二の表現者が世界に出ていたら……

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 前稿では俳優・三浦春馬に押し付けられた「イケメン」イメージへの違和感について触れた。彼の才能はその道のプロが高く評価していたし、近い将来には「イケメン」と括ること自体が失礼だと、多くの人が察知できるくらいの大きな存在になれるはずだったと書いた。本稿では仕事熱心で本物志向の三浦とは、きっと肌が合わなかったであろう日本のエンターテイメント界について考えてみたい。

働かせ過ぎでは……

2009年9月、19歳のころ2009年9月、19歳のころ
 10代から主役を多く務め、“早咲き俳優”だった三浦。本人は挑戦しがいのある作品で最高のパフォーマンスを届けたい、と熱心に仕事に取り組んでいた。インタビューなど数多くの発言を読む限り、彼に健全な向上心はあっても、歪んだ功名心とは無縁だったと思う。

 メジャーシーンにいながら自分の志向に合った仕事の質を重視する俳優は、日本ではそれほどありがたがられないのかもしれない。とりわけ大きな芸能事務所の場合、売り上げ第一の働かせ方を優先することはあり得るだろう。ビジネスである以上、ある意味それは当然のことだ。しかし三浦の場合、すでに芸暦の長い彼の意向を最大限に尊重し、才能を全面的にサポートする体制にどこまでなっていたのか気にかかる。

 亡くなる直前まで撮影を続けたドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』(2020、TBS系)は、本人が本気で希望した作品とは私には思えなかった。人相も変わるほど激やせした彼が「清貧女子」と「浪費男子」のラブコメに出演していたことに違和感があった。また、彼が亡くなった後の放映で、首吊り骸骨人形が彼の部屋に残されていたという演出にも、番組で流れた「春馬くん ずっと大好きだよ」などと30歳の男性に“くん”付けをする、あまりに軽い追悼テロップにも、個人的には大変ショックを受けた(このドラマが好きな人には申し訳ないが)。

 たび重なるヘビーな役柄(狂気に触れる殺人者、冤罪を着せられた男、特攻隊として散る男、焼身自殺する男)や、膨大な仕事量も疑問だ。インタビューで三浦は「人としても俳優としても『進化したね』とか『成長したね』って言ってもらえるような、いい仕事をしていきたい」と前向きな抱負を語りながらも、「プライベートは…(マネジャーをチラッと見て)ありませんね。2019年の僕にプライベートはありません(笑)」「いや、休みはもらえるなら欲しいです(笑)。時間があったらこれをやりたいっていうのもたくさんあるし。例えば、サーフィン、スキューバダイビング、バイクの免許、船舶免許…。結構幅広いことに興味があるんですよ」と答えている(2018年12月22日、WEBザテレビジョン)。

 彼ほど実績がある事務所の功労者でも、

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