神田桂一(かんだ・けいいち) フリーライター
1978年、大阪生まれ。関西学院大学法学部卒。一般企業勤務から週刊誌『FLASH』の記者、ドワンゴ『ニコニコニュース』記者などを経てフリー。カルチャー記事からエッセイ、ルポルタージュまで幅広く執筆。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社=菊池良と共著)など。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
フィクションとノンフィクションを越境する二人の共通点
今から半年前くらいに、僕は文庫になって結構経っていた沢木耕太郎のエッセイ『ポーカーフェース』を読んでいた。その中の1編「マリーとメアリー」という文章を読んで、僕は面白い事実に突き当たった。その瞬間、僕の中で何かが腑に落ちたような感覚があった。それは、僕が、今まで抱えていた、形のない思いに、輪郭を与えてくれた事件でもあった。
エッセイはこんな話だ。
普段はお酒に無頓着な沢木だが、唯一、こだわりを持っているお酒がある。それがブラッディー・マリーだった。それは、初めてハワイ行きの国際線に乗ったときに飲んだもので、それがとてもおいしく感じられ、それ以降、飛行機の国際線に乗る際には、必ずブラッディー・マリーを注文するようになった。沢木は、マリーがフランス語の読み方であるからには、名前の由来は、フランス革命の際、断頭台で処刑されたマリー・アントワネットだろうと思いこんでいたところ、アメリカ人の友人が、メアリーと発音しているのを目撃し、驚く。
と、いったふうに話は進んでいくのだが、問題はその後だ。2年前、ドイツから日本に戻る飛行機の中で、沢木が普段と同じく「ブラッディー・メアリー」を注文したところ、日本人の客室乗務員にこう指摘されるのである。
「ムラカミさんと同じなんですね」と。
まだ文章の中では、このムラカミさんが村上春樹とは、明かされていない。でも、僕は、過去に村上春樹がブラディ・メアリー(村上作品での書き方はこうなる)を飛行機の中で飲むという記述を作品で読んだことがあった。だから、すぐにこれが村上春樹であることはわかったのだ。そして、さらにこうも思ったのだった。ふたりの共通点は、もっといっぱいあるんじゃないか、と。