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『鬼滅の刃』は作者がメディアに出なくても大ヒット

中川右介 編集者、作家

 『鬼滅の刃』の大ヒットの理由については、作品そのものの魅力の解説や、マーケティングの観点からの分析がさまざまになされているが、いずれも後付けのもので、真の答えなどない。

 大ヒットを狙って綿密な計算と計画があったのではなく、大ヒットしてしまったのだ。

 まねしても大ヒットはしない。

 解説も分析も、意味がないとは言わないが、あまり説得力はないと思う。

 この記事では、『鬼滅の刃』がこれまでのマンガ、アニメとは異質な点をいくつか指摘していく。

人気作「鬼滅の刃」が高く積まれた、丸善アスナル金山店のコミックコーナー=2020年12月10日午前10時9分、名古屋市中区『鬼滅の刃』が高く積まれた、丸善アスナル金山店のコミックコーナー=2020年12月10日、名古屋市中区

ブックオフにもない『鬼滅の刃』

 『鬼滅の刃』のコミックスの何がすごいって、ブックオフに売っていないことだ。

 たまたま私が住んでいる地域がそうなのかもしれないが、ブックオフのネットショップを見ても品切れだから、全国的に、同じだろう。

 古書店へ出ないということは、買った人たちがまだ手放さないでいる。あるいは、誰かが売りに出したとしても、すぐに売れてしまうということだ。

 こんなに売れているのに、ブックオフにないのは、いかに愛されているかということでもある。

 こういう例は、あまりないのではないか。

2カ月ごとに2000万部!

「鬼滅の刃」最終巻などを買い求める客の列が店内を一周していた=2020年12月4日午前10時9分、東京・渋谷駅前のTSUTAYA渋谷店、『鬼滅の刃』最終巻を買い求める客の列が店内を一周=2020年12月4日、東京・渋谷駅前のTSUTAYA渋谷店

 私が『鬼滅の刃』という売れているマンガがあると知ったのは、去年(2019年)だった。

 だが、読み始めたのは今年になってからだ。

 5月に、1巻から買おうと思って近くの書店へ行ったが、全巻は揃ってなく、その日、5月19日は店にあった5、6、20巻を買った。

 20巻が最新刊で5月13日発売、帯には「初版280万部達成!! 累計6000万部突破!!」とある。

 この時点では、Amazonにも新刊の在庫はなく、中古が定価よりも高値で売られていた。

 それから近隣の書店で見つけては買っていき、20巻まで揃ったのが6月13日。

 この頃、連載は終了し、23巻で終わることが「短い」と話題になった。

 7月3日に発売となった21巻は発売日に買えた。

 帯には「初版300万部達成!! 8000万部突破!!」とある。2か月で2000万部も売ったのだ。

 そして22巻は10月2日発売、映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開が16日。

 22巻の帯には「1億部突破!」とある。2か月でまた2000万部だ。

 映画が大ヒットしているさなかの12月4日、最終巻となる23巻が発売された。

 発売日の朝9時半に書店へ行ったときは、まだ荷をほどいて、積んでいるときで、その一冊を買った。夕方行ったら、もう売り切れていた。

 23巻の帯には部数は記されていない。報道によれば、初版395万部で、1億2000万部突破。すさまじい。

 出版物の売り上げは、ここ20年以上、前年同月比マイナスが続いているが、去年から、『鬼滅の刃』の新刊が出る月は前年比プラスのこともある。

 1点のマンガが出版統計全体を左右しており、これは村上春樹と『ハリー・ポッター』シリーズのそれぞれの全盛期以来だ。

『鬼滅の刃』を描くまでの吾峠呼世晴

作者の吾峠呼世晴さんから読者へのメッセージ〓吾峠呼世晴/集英社 「鬼滅の刃 新聞広告」PR事務局作者の吾峠呼世晴から読者へのメッセージ=吾峠呼世晴/集英社 「鬼滅の刃 新聞広告」PR事務局提供
 『鬼滅の刃』は社会現象とまでなっているが、まったく触れられないのが、マンガの作者、つまりアニメの原作者である「吾峠呼世晴」のことだ。

 「ごとうげこよはる」と読む。ペンネームだと思うが、そうなのかも公式には明かされていない。

 「少年ジャンプ」での連載が終わった5月、週刊誌が

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