2020年12月21日
小松政夫さんが亡くなった。多くのメディアが紹介する通り、「しらけ鳥音頭」「電線音頭」、淀川長治さんのモノマネなど、数々の持ちネタで日本中を笑わせたコメディアンであったが、味のある俳優でもあった。遺作となったのは、NHKドラマ「すぐ死ぬんだから」(2020年)である。
私は何度かインタビューをお願いし、番組に一緒に出演する機会もあった。ここでは「俳優・小松政夫」の原点や魅力について書きたいと思う。
「小学生のころから役者になりたくて、通信簿に『勘違いも甚だしい』と書かれてね(笑)。家にあった浪曲のレコードや、焼け跡の広場に来る露天商の口上をすっかり覚えちゃう。毛布売りのおじさんが『これカシミア。知っとうね。色なんかどうでもよか。寝るときは目つぶって見えん!』なんて言う調子が面白くて」
後に小松さんは、「もーイヤもーイヤこんな生活!」「おせえておせえて」といったギャグを連発。その個性は“リズム&ギャグ”と評されたが、原点はこの時代に聞いた浪曲や口上の名調子にあったのだ。
そして、そのセンスは芝居にも生きる。ドラマ「必殺仕置屋稼業」(75年)では、藤田まこと演じる同心・中村主水の手下の亀吉役で、ふたりは毎回絶妙な呼吸のやりとりを見せた。袖の下を俺の目の前でもらうやつがあるかと主水に注意され、暗にこっそりもらえと言われているのがわかった時の亀吉の「あ、あは、はははは~」という反応は、リズム&ギャグそのものだ。
さまざまなアルバイトを経験し、事務機器のセールスをしていた時、営業先の車の販売会社の課長からうちに来ないかと誘われた。その課長が面白い人で、いきなり「空手チョップだよ~ん!」と迫ってくる。その人の期待に応えようと奮闘したところ、トップセールスマンになった。20歳そこそこで給料は今の100万円以上。英国製のスーツに靴まで仕立てて、キャバレーや宴会で大騒ぎする日々の中で「お前は道を間違ったなあ」と言われて、はっと気がついた。
「俺は役者になりたかったんじゃないか」
そのとき、たまたま「植木等の付き人募集」記事を見つけ、見事600人の中から選ばれた。ご本人は「見所がありそうだから選ばれたなんて言われるけど、本当は
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