[2020年 映画ベスト5]戦う若者を描いたヨーロッパ映画の健闘
「ミニシアター・エイド」と東京国際映画祭で見えた日本映画界の方向性
古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)
1人の小説家を描いた清冽で抒情溢れる『マーティン・エデン』
『マーティン・エデン』は無学な男が金持ちの令嬢と知り合ったことをきっかけに小説家を目指す話。ジャック・ロンドンの小説『マーティン・イーデン』を大胆にも舞台を20世紀のイタリア・ナポリに移し、1人の作家の誕生とその後を描く清冽で抒情溢れる青春映画となった。
文字もろくろく書けない青年が、愛と文学に同時に目覚め、猪突猛進する姿がいい。ひたすら本を買って読み、タイプライターを打つ。断られても、断られても書き続ける。彼の成功を祈るエレナ、何とか応援しようとする姉、郊外の部屋を貸すシングル・マザーのマリア、才能を見抜いた老詩人のブリッセンデン、鋳物工場からの友人ニーノなど見守る人々の優しさが染みる。
猪突猛進のマーティンのシーンの合間に挿入されるのはナポリの人々の生き生きとした姿。さらに禁止された本の焚書の場面などアーカイブ映像も混じる。それもまた「大いなるナポリ」としてマーティンの存在を見守り支える。粒子の粗い16㎜の映像と濃い色彩が目に焼き付く。明らかに映画狂の監督が作った愛おしい作品だ。
『レ・ミゼラブル』は移民社会のフランスの現在を見せる作品だ。題名はビクトル・ユゴーの同名の小説やそれを原作としたミュージカルを思わせるが、全く違う。舞台はパリ郊外のモンフェルメイユで、移民や低所得者層が住む危険な地区として知られる。そこでの警察と住民のいざこざが描かれるが、この題名を使ったのは、モンフェルメイユという街が、ジャン・ヴァルジャンが出会う女性が娘を育てる場所としてユゴーの原作に出てくるから。

『レ・ミゼラブル』のラジ・リ監督
おもしろいのは
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