[2020年 映画ベスト5]忖度なしの本気セレクト!
『スパイの妻<劇場版>』、『イップ・マン 完結』……
藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師
『テッド・バンディ』(ジョー・バーリンジャー)
稀代の連続殺人鬼の伝記フィクション映画だが、このジャンルにありがちな残虐シーンをほとんど省略し、かといってバンディの“心の闇”に拘泥する心理主義をも排し、人当たりのよい態度で言葉巧みに捜査網をかいくぐる彼が、最後の裁判では次第に追い詰められていく様を、いわば不即不離の距離で描く傑作。変質者にして良き夫であり父でもあったバンディの人格の二重性(?)を、ザック・エフロンが好演。また本作は、冤罪被害に遭った主人公の受難を描くクリント・イーストウッドの秀作、『リチャード・ジュエル』とコインの裏表をなす点でも注目すべき犯罪ドラマだ。Netflix配給(2020・02・07、同・02・13、同・02・19の本欄参照)。

『テッド・バンディ』 配給:ファントム・フィルム ©2018 Wicked Nevada,LLC
『シチリアーノ 裏切りの美学』(マルコ・ベロッキオ)、あるいは『アルプススタンドのはしの方』(城定秀夫)、あるいは『初恋』(三池崇史)
“イタリア映画最後の巨匠”ベロッキオの逸品は、マフィアの大物が司法取引によって組織を“裏切る”驚愕の顛末を優れた画力と演出で描く(2020・09・09の本欄参照)。

『シチリアーノ 裏切りの美学』 © LiaPasqualino
城定作品は母校の野球部の応援のために甲子園にやって来た演劇部の高校生らが、互いの距離をおずおずと測りあいながら、相手と自分を傷つけないよう忖度しながら慎重に言葉を交わし、クラス内での自分のカースト(階層)を見定めようとする今風の“低体温青春映画”だが、フィールドをいっさい写さず、スタンドの彼・彼女らのみを写すカメラ・アングルがユニークな傑作。
三池作品は、お得意のバイオレンス活劇に初のラブストーリーを加味した血沸き肉躍る、そしてズッコケる快(怪?)作で、主演の男女二人の弱さを、ベッキー(凄い!)、大森南朋、内野聖陽らが補って余りあるアッパレな出来栄え。