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劇場、それは精神を守る場所

コロナ禍の中で考える、演劇の現在と未来【下】

瀬戸山美咲 劇作家・演出家

精神が守られて、人は未来に向けて呼吸ができる

 2020年の夏、私が最初に公演活動を再開したのは富山県南砺市にある利賀芸術公園だった。

拡大利賀芸術公園にある野外劇場=富山県南砺市
拡大冬は雪が降り積もる利賀芸術公園を背景に語る鈴木忠志さん=2012年撮影

 演出家の鈴木忠志さんが44年前に東京から移住し世界に向けて演劇をつくり続けている場所だ。今年の演劇祭は海外からアーティストや観客が来ることができなかった。しかし、地元の人たちと一緒に野外劇を観ながら私は日本中にこういう場所ができたらどんなにいいだろうと夢想した。

 人が生きるためには、健康の維持、経済的な支えなど、必要なものがたくさんある。しかし、もうひとつ目をそらしてはいけないのは、人間の“精神”を守ることだ。精神が守られて初めて人は未来に向けて呼吸ができる。その精神を守ることが、もうひとつの演劇や芸術文化の存在理由だ。

 今、文化芸術に携わる人に限らず、自分の仕事が世の中にとって本当に必要かわからず不安を感じている人は多いと思う。私は全部必要だと言いたい。好きでやっているだけだからと卑下することはない。その活動がひとりでも誰かを救えば素晴らしいし、ひとりも救わなかったとしても存在していい。多様なものがあること、無駄に見えるものがあること。それが社会全体の“精神的余裕”だからだ。

 現在も多くのカンパニーが可能な限り感染症対策を取りながら上演を続けている。しかし、明日どうなるかはわからない。上演自体できずにいる演劇人もたくさんいる。これまで受け継がれてきた技術や積み重ねてきた経験、若い人たちの希望がここで途絶えてしまわないように。2021年も自分にできることは続けたいと思っている。


筆者

瀬戸山美咲

瀬戸山美咲(せとやま・みさき) 劇作家・演出家

1977年生まれ。2001年、演劇カンパニー「ミナモザ」を旗揚げし、現実を通して社会と人間の関係を描く作品を発表。16年、パキスタンで起きた日本人大学生誘拐事件を描いた『彼らの敵』が読売演劇大賞優秀作品賞。19年『夜、ナク、鳥』『わたし、と戦争』、20年『THE NETHER』で同優秀演出家賞受賞。20年芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。ラジオドラマの脚本も手がけ、16年、FMシアター『あいちゃんは幻』で放送文化基金賞脚本賞。映画『アズミ・ハルコは行方不明』『リバーズ・エッジ』などの脚本も手がける。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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