『鬼滅の刃』、『コロナ時代の哲学』、『自転しながら公転する』……
*本や出版界の話題をとりあげるコーナー「神保町の匠」の筆者陣による、2020年「私のベスト1」を紹介します(計2回)。
井上威朗(編集者)
吾峠呼世晴『鬼滅の刃 23』(集英社)
この作者、本作の連載前から「モノが違うのでは」という声を漫画編集者界隈から聞くことがありましたが、想像以上でした。中高年でも分かるようにたとえると、『北斗の拳』のテンションと、『デビルマン』の驚きと、『寄生獣』の完成度とを両立させた未曾有の作品です。作者が設定や自分の思いなどを23冊の単行本に隙間なく書き続けてくれたのも、追ってきた読者にとって泣けるほど嬉しいサービスに思えます。
そして、この23巻で描かれた名エンディングは、登場人物のファンにとって悔しすぎる「その後」までも暗示しているのですが、それすら納得させる一貫した力強いメッセージは、素直に心を打つものでした。
最後に、おそらく忖度の結果である初版395万部という部数決定が、書店店頭での混乱と大量の売り逃し、転売屋の跋扈、逆に電子書籍のさらなる普及という結果を招いたことは、ここで記録にとどめておくべきでしょう。
小林章夫(上智大学名誉教授)
パニコス・パナイー『フィッシュ・アンド・チップスの歴史――英国の食と移民 』(栢木清吾訳、創元社)
だが、これでイギリス料理の評価が高まるとは思わないけれど、そんなことは気にする必要はない。これからもこの伝統は受け継がれるだろうから。