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[神保町の匠]2020年の本 ベスト1(上)

『鬼滅の刃』、『コロナ時代の哲学』、『自転しながら公転する』……

神保町の匠

中嶋廣
山本文緒『自転しながら公転する』(新潮社)

山本文緒『自転しながら公転する』(新潮社)拡大『自転しながら公転する』(新潮社)の著者・山本文緒
 最初は『小説新潮』に断続的に連載され、その後単行本になった。単行本化されるにあたり、プロローグとエピローグが加えられた。おかげでこの小説は違う作品になった。雑誌に載ったとき山本文緒は、これで完結していると思ったと思うのだ。ところがゲラを読んでみると、どうも何かが足りない。『自転しながら公転する』の、「公転」が弱いことに気づく。

 主人公は30過ぎの独身で、一応は時間労働契約社員であり(つまり正社員でもバイトでもない)、親の介護で実家に帰っている。これが現代の女性の一つの典型である。面白く読めて考えさせる。そしてプロローグとエピローグが加わることによって、ぐんと奥行きが増し、今の日本に対し堂々と対峙する作品になっている。アッと驚く最後のオチも含め、巻を閉じてしばらくは呆然としていた。

松澤隆(編集者)
日本アーレント研究会編『アーレント読本』(法政大学出版局)

日本アーレント研究会編『アーレント読本』(法政大学出版局)
拡大日本アーレント研究会編『アーレント読本』(法政大学出版局)=筆者提供
 2020年、ここで挙げた複数冊は、すべて己れの闇を照らす光であり続けている。中でも毎日開くのは、上掲書。世界大戦級のコロナ禍の下、<全体主義の後、アイヒマンの後では、思考だけでなく無思考もが「万人にいつも開かれている可能性」>なんて一節(上掲書、青木崇の論文)は、刺激的。

 刺激といえば、歿後50年で熊野純彦『三島由紀夫』(清水書院)。熊野の著書で初めて完読、興奮。興奮といえば、歿後40年の『野呂邦暢ミステリ集成』(中公文庫)。初集成の魅力。自分が10代で初めて「成人向雑誌」の覚悟で買った「文藝春秋」の芥川賞作家が野呂。文藝春秋といえば(意外な?)長谷部恭男『戦争と法』。石川健治が國分功一郎との対談で激賞、購読。國分といえば、『はじめてのスピノザ――自由へのエチカ』(講談社現代新書)。既読感はあるが良書。ただ、<スピノザに対して、終始、批判的であった> (上掲書、國分のコラム)というアーレントに、いま惹かれる。

『アーレント読本』の魅惑――彼女の思想へ導く、美しい要素に満ちた「星図」