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ヘップバーン演じたホリーは「アメリカの寅さん」だった

【3】「ティファニーで朝食を」の原作を読んでみた

中川文人 作家

 オードリー・ヘップバーンの伝記『オードリー・ヘップバーン物語』(バリー・パリス著、集英社文庫)にはこう書いてある。

 「多くの人々にとって、オードリー・ヘップバーンが「演じるべくして生まれた」役の最たるものは、『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリーだった。」

 言い回しが気取っているのでちょっとわかりにくいが、ようするに、「オードリー以外のホリーなんて考えられない」と言いたいのだろう。

 たしかにこの映画を観ると、オードリー・ヘップバーン以外の女優が演じるホリー・ゴライトリーというのは想像できなくなる。それほど、オードリー演じるホリーには華があり、魅力がある。

 が、誰もがそう思っているわけではない。「オードリーはこの役にまったく向いていなかった」と言う人もいる。映画『ティファニーで朝食を』(1961年)の原作者、トルーマン・カポーティその人である。

オードリー・ヘップバーンvs.マリリン・モンロー

拡大イラスト・斉田直世

 この小説を翻訳した村上春樹も、新潮文庫版の「訳者あとがき」に「作者トルーマン・カポーティは明らかに、ホリー・ゴライトリーをオードリー・ヘップバーンのようなタイプの女性としては想定していない」と書いている。

 では、カポーティはどういう女性を想定していたのか。カポーティ本人はこう言っている。

 「マリリン・モンローは、私が考えたホリー・ゴライトリー役の第一候補だった。彼女なら完璧だと思った。しかし、(映画会社の)パラマウントはあらゆる点でわたしを裏切って、オードリーにこの役を与えた」

 オードリー・ヘップバーンとマリリン・モンロー。どちらも映画史にその名を刻む世界の大女優だが、イメージはかなり違う。オードリーは妖精のような可憐さが魅力の女優だが、モンローはセクシー路線のど真ん中を行くアメリカのセックスシンボルである。

 しかし、カポーティは世界中が「オードリーでよかった」と言っているのを知りながらも、いつまでも未練がましく、「マリリンの方がよかった」と言い続けた。

 もし、カポーティの希望通り、マリリン・モンローがホリーを演じていたら、いったいどんな映画になっていたのか。オードリー主演のこの映画はカポーティに最大の商業的成功をもたらしたというが、モンロー主演でもそうなったのか。そんなことを考えながら、小説『ティファニーで朝食を』(村上春樹訳、新潮文庫)を読んでみた。

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筆者

中川文人

中川文人(なかがわ・ふみと) 作家

1964年生まれ。法政大学中退、レニングラード大学中退。著書に『身近な人に「へぇー」と言わせる意外な話1000』(朝日文庫)、『地獄誕生の物語』(以文社)、『ポスト学生運動史』(彩流社)など。本の情報サイト『好書好日』で「ツァラトゥストラの編集会議」の構成担当。総合誌『情況』にてハードボイルド小説「黒ヘル戦記」を連載中。

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