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舞台『Oslo(オスロ)』に出演 安蘭けいインタビュー/下

無理だと決めつけず理想に向かっていく尊さを伝えたい

橘涼香 演劇ライター


舞台『Oslo(オスロ)』に出演 安蘭けいインタビュー/上

困った人を見ると放っておけない

──理想の実現の為に奔走する人間ドラマが描かれていきますが、そうした正義感についてはどう感じられますか?

 私自身は正義感がとても強い方の人間だなと思っていて。困った人がいたらなんとしても助けたいと思いますし、実際に倒れている人に遭遇することも運命なのかと思うほど多くて、そういう時はできる限りのことをしています。放っておけないんです。でもだから逆に自分が自転車に乗っていて派手に転んでしまった時に、誰も助けてくれなかったのがショックで!

拡大安蘭けい=岩田えり 撮影

──そんなことが?!

 荷物も散らばってしまって倒れているのに、誰ひとり声ひとつかけてくれず、目にも入っていないかのように素通りしていくんです。その時は非常に萎えましたね。「大丈夫ですか?」のひと言だけでもあれば、全く気持ちが違ったと思うんですが、そういうことが何もなかったので、本当に悲しかったです。でも皆が皆そんな人ばかりであるはずがないですし、少なくとも自分はそういう人にはなりたくないと思っています。しかもこの作品で奔走する坂本昌行さん演じる社会学者のテリエと彼の妻で外交官のモナは、もっともっと大きな、世界を変えようという信念を持って進んでいくんです。それはひとつ間違えれば命にもかかわることですから、なかなかできることではありませんが、正しいと思ったことに突き進む彼らには私も共感します。

──安蘭さんが宝塚歌劇団で日本初演時に出演されたミュージカル『THE SCARLET PIMPERNEL』の主題歌をふと思い出したりもします。

 「ひとかけらの勇気」ですね!確かに共通するものはありますね。ただ、この作品ではそうした正義を目指すものが、現場ではなく遠く離れた場所の話し合いによって動いていくということには驚きもありました。でもそれだけに二人の行動が素晴らしいので、理想を追うなんて所詮無理だと決めつけてしまわずに、行動することの尊さがメッセージとして伝わればいいなと思います。もちろんここで描かれているのは、国際的な和平交渉という壮大すぎる話ですけれども、そんな途方もなく大きなことではもちろんなく、日常のどんなに小さなことでも、この方が良いと思ったならやらないよりはやった方がいいと思うんです。その一つひとつは、目に見えた何かを残さなかったとしても、それがずっと積み重なっていけば、必ず希望につながるし、自分が信念を持って、理想を求めて生きることの尊さが感じられると思います。

自分に嘘はつきたくない

拡大安蘭けい=岩田えり 撮影

──そういう作品の大きなテーマからすると、少し抽象的な質問になってしまうかも知れませんが、安蘭さんがこれだけは譲れないと思っていらっしゃることはありますか?

 自分に嘘をつきたくないとは思っています。力に屈しないというとちょっと大きく聞こえてしまうかも知れませんが(笑)、でも「これをしなさい」と言われた時に、自分の心がそれはしたくないと思うことだったら、絶対にやりません。「とりあえずしておけばいいじゃない」という意見もあるかと思いますが、そこで自分に嘘はつきたくない、つけないので、回り道をしていることも多いんだろうと思いますが、でそれは信念として持っていますね。

──だからこそ、客席から拝見してきただけの私からしても、このモナ役のイメージが安蘭さんにピッタリだなと感じるんだなと思います。

 そう見えますか?そうだったら嬉しいです。

拡大安蘭けい=岩田えり 撮影

──またこの作品はストレートプレイですが、ミュージカル作品への出演も多い安蘭さんにとって、双方の楽しさ、また難しさなどで感じることはありますか?

 ずっと私は宝塚でミュージカル作品をやっていたので、退団してから初めてストレートプレイをやった時に、今ここで歌うことができたら、この役柄の感情を歌で表現できるのに!とすごく思ったんです。悲しみや喜びは音楽があればすぐに表すことができますが、それがない中での表現がとても大変で。これが芝居の難しさなのか!と思いました。でもその音楽がないからこそ、とことんまで役柄の芝居を突き詰めることができるんだなという楽しさがわかってきて、すべてを言葉と演技で紡いでいくストレートプレイの醍醐味も大きく感じるようになりました。

 そういう視点で見ると、最初に言ったように、ミュージカルは音楽で表現できるとも言えますけれども、音楽で表現しなければならないという側面も持っているんですね。テンポも決まっているし、メロディーも決まっているので、そこに乗ってしまえば気持ち良いのですが、この決められた中で絶対に表現しなければならないことを不自由に感じる時もあって。ですから、ストレートプレイをやっていると「次はミュージカルをやりたい!」と思いますし、ミュージカルをやっていると「今度はストレートプレイをやりたい!」と思うんです(笑)。それぞれにそれぞれの良さと、難しさがあって、双方が好きだからこそ感じることなんだろうなと思います。だからこそ両方をやっていきたいです。

◆公演情報◆
舞台『Oslo(オスロ)』
東京:2021年2月6日(土)~2月23日(火祝)  新国立劇場 中劇場
宮城:2021年2月27日(土)~2月28日(日)  東京エレクトロンホール宮城
兵庫:2021年3月3日(水)~3月7日(日)  兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
福岡:2021年3月13日(土)~3月14日(日)  久留米シティプラザ ザ・グランドホール
愛知:2021年3月20日(土)~3月21日(日)  日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
公式ホームページ
[スタッフ]
作:J・Tロジャース
翻訳:小田島恒志・小田島則子
演出:上村聡史
[出演]
坂本昌行、安蘭けい、福士誠治、河合郁人
横田栄司、石田圭祐、那須佐代子、石橋徹郎、佐川和正、チョウ・ヨンホ、駒井健介、吉野実紗
相島一之、益岡徹
 
〈安蘭けいプロフィル〉
 1991年宝塚歌劇団に首席で入団し、2006年星組男役トップスターに就任。2009年退団。退団後も、舞台を中心にライブコンサート、TVドラマ出演等、幅広く活躍する。『サンセット大通り』『アリス・イン・ワンダーランド』の演技に対して、第38回菊田一夫演劇賞受賞 。近年の主な舞台出演作に、ミュージカル『ビリー・エリオット』、『inseparable 変半身』、『HAMLET —ハムレット—』、『マン イスト マン』、『民衆の敵』『レインマン』『リトル・ナイト・ミュージック』など。
公式ホームページ
公式instagram

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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