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下町・谷中に仲良し落語家ふたりがつくった小さな演芸場「にっぽり館」

トーキョー落語かいわい【6】コロナ禍にも屈せず、落語を楽しむ空間を

鶴田智 朝日新聞社財務本部グループ財務部主査

「初笑い」を求めて初日の公演に

拡大「本日 落語会」と案内板が出ていた=東京都荒川区の「にっぽり館」、筆者撮影

 2021年の初日は1月4日。「初笑い」を求めて足を運びました。

 木戸をくぐり、客席に入って目につくのは、高座の前に天井から下がった透明シート。高座からの飛沫(ひまつ)を防ぐ仕切りとして設けられています。高座の正月飾りが、新年気分を盛り上げます。

 落語を語る前、たけ平と萬橘が高座の左右に分かれて座り、恒例の「おしゃべり」が始まりました。息の合った漫才のようです。この日は、萬橘が猿回しの猿という想定で、たけ平の質問に太鼓をたたいて「イエス」「ノー」を答える趣向です。

 ボケの萬橘、突っ込みのたけ平。ふたりのキャラに応じて?、すっかり役割分担ができています。このおしゃべりで、客席が笑いの空気に包まれます。温まる、というやつでしょうか。

 お待ちかねの落語は、萬橘がまず百人一首に題材を取った「千早振る」の一席。萬橘独自の様々なくすぐりがこの日も炸裂し、笑い声がはじけます。

 トリのたけ平は、いつもの張りのある声で「井戸の茶碗」を熱演。くず屋から買った仏像から50両が出てきて……というお話に、客席は聴き入りました。

 トリは公演ごとに交代で、芸風の違うふたりが古典落語をたっぷり聞かせてくれます。直球を投げ込んでくる熱投型のたけ平、軽やかに変化球を織り込んでくる萬橘――。ふたりの芸風を表現すると、そんな感じでしょうか。「チームワークを、全体を楽しんでもらっているように思います」と萬橘。なるほど、持ち味の違いが、絶妙なコンビネーションになっています。

拡大「にっぽり館」の高座に並ぶ萬橘(左)とたけ平=東京都荒川区、飛沫防止シート越しに筆者撮影

息詰まる日常で心が和らぐ場所に

 コロナ禍のもと、在宅勤務や巣ごもりで、息の詰まるような日常が続くなか、なまの落語に接して息抜きのひとときを過ごしたい。オンラインでの落語も悪くないけど、リアルな会場でライブ感を味わうと、なおうれしい。

 そんなファンにとって、存分に落語を堪能できるにっぽり館は、心が和らぐ場所になっていたと思います。

 笑うだけじゃありません。

 昨年最後の公演、たけ平の「竹の水仙」で客席がわいた後、萬橘の人情噺「文七元結(ぶんしちもっとい)」を聞いて、家族を思う心の表現に、筆者は思わず涙が出そうになりました。

 にっぽり館の魅力は、ふたりの仲の良さが醸し出す居心地の良さ。まさに、仲良きことは美しき、いや楽しきかな、だと感じます。また、こんな時だからこそ伝統芸能を、ひいきの落語家を少しでも応援したい。そんなお客さんもいることでしょう。

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筆者

鶴田智

鶴田智(つるた・さとし) 朝日新聞社財務本部グループ財務部主査

1984年朝日新聞社入社。地域面編集センター次長、CSR推進部企画委員、「声」欄デスク、校閲センター記者を務める。古典芸能にひかれ、歌舞伎はよく観劇、落語は面白そうだと思えばできるだけ見に行く。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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