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下町・谷中に仲良し落語家ふたりがつくった小さな演芸場「にっぽり館」

トーキョー落語かいわい【6】コロナ禍にも屈せず、落語を楽しむ空間を

鶴田智 朝日新聞社財務本部グループ財務部主査

話し声のしない開演前の客席

 とはいえ、コロナ感染がこうも拡大し、ましてや2度目の緊急事態宣言まで出てしまうと、出歩くことを躊躇(ちゅうちょ)する人は少なくないでしょう。落語をなまで聞く楽しさと、感染の怖さが拮抗(きっこう)します。

 筆者もそうです。自分が感染するだけでなく、周囲の人にうつしてしまうかもしれないことも心配。思えば、昨年からずっとそうでした。寄席や演芸場に行く回数は以前と比べると明らかに減り、たまに行っても、どこか緊張しながら高座を見ている。座る席も、まずディスタンスを考えて……。

 マスクをしっかりして、息をひそめながら、昨年末、今年初めと足を運んだにっぽり館でも、開演前の客席はひっそりとしていました。周囲への気遣いでしょうか、話し声があまりしない。

 萬橘に聞くと、「楽屋にいても、お客様がいるのかいないのか、わからなくなった。お客様がしゃべらないので、1人のときも15人のときも音が変わらないんですよ」と言います。開演して初めて「こんなにいてくれたんだ」とわかることもあったとか。

 寂しくもあるけれど、感染防止がなにより大事な今、仕方がありません。にっぽり館でも、当然ながら、感染対策がしっかりとられています。

高座の前に透明な飛沫防止の仕切り

 まずは、先ほど触れた飛沫(ひまつ)防止シート。座った落語家は、まるでついたてのような透明シート越しに、落語を披露します。昨年夏に登場し、最初は単にビニールシートをつり下げていただけでしたが、支えのポールをつけて透明な樹脂のシートに交換するなど、「進化」もしています。ホームセンターで材料を調達し、手作業でセットしたそうです。

 ちなみに、高座の前のこうした透明の仕切りは、神田連雀亭(東京)などでも見られる工夫です。

 こじんまりとした会場だけに、飛沫防止シートが安心感を生んでいますが、演じているたけ平、萬橘に聞くと、やはり勝手が違ったといいます。だいぶ慣れてはきたそうですが、シートで声がはね返ってくるし、夢中で演じていると手が当たることもあるとか。たけ平は大ネタの「鰍沢」の途中で手をぶつけ、「タポン」と音がしたそうです。

 シートの高座側は、夏は熱が出ていかず、冬は暖房の熱が入ってこないとも。夏場はきっと熱演以上に大汗をかいたことでしょう。冬になったら「手がかじかむ感覚がある」(萬橘)そうです。ほんとうに大変です。

拡大高座の前を仕切る飛沫防止シート=東京都荒川区の「にっぽり館」、筆者撮影

入場者は制限、笑いもマスク越しに

 客席もソーシャルディスタンスをしっかりとっています。新型コロナウイルスの感染拡大「第1波」に見舞われたのは、にっぽり館が開館して1年がたった昨年春。4月に予定していた1周年記念公演は休館中で中止され、6月に再開以降、定員30人のこじんまりとした客席を、さらに間引いて入場者数を制限しました。客席の丸いすや長いすの上に赤いテープを「×」の形に貼り付け、使用禁止にして間隔をあけ、最前列はすべて着席禁止に。入場者数を15人まで制限したときもありました(今は21人)。

 客席の換気扇もフル稼働です。公演の日だけでなく、閉じている日もずっと回し続けていると言います。「お客様ももちろん、我々も感染すると困りますから」とたけ平。

 入場の際は手をアルコール消毒。どの寄席や演芸場もそうですが、客席でマスクは必須。笑い声もマスク越し。静かに笑うのはなかなか難しいですが、筆者も声を気持ち抑えるようにしています。

 以前は他の落語家がゲスト出演することがしばしばありましたが、楽屋もできるだけ密を避けたほうがいいと、たけ平と萬橘がほぼ2人で続けています。コロナが収束したらまたゲストの落語家を、いずれは漫才や奇術など色ものの芸人も呼びたい、ということです。

拡大高座の前に飛沫防止シート。客席の最前列は、コロナ感染対策で使用禁止。後ろの手すりつきいすが昨年秋に入った=東京都荒川区の「にっぽり館」、筆者撮影

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筆者

鶴田智

鶴田智(つるた・さとし) 朝日新聞社財務本部グループ財務部主査

1984年朝日新聞社入社。地域面編集センター次長、CSR推進部企画委員、「声」欄デスク、校閲センター記者を務める。古典芸能にひかれ、歌舞伎はよく観劇、落語は面白そうだと思えばできるだけ見に行く。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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