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ウォーリー木下&内海啓貴VR演劇『僕はまだ死んでない』インタビュー/下

新しい体験込みで、様々な楽しみ方をして頂け

橘涼香 演劇ライター


ウォーリー木下&内海啓貴VR演劇『僕はまだ死んでない』インタビュー/上

「VR演劇」にはたくさんの可能性がある

──そんなVR演劇に携わった手応えや、発展の可能性はどうですか?

内海:映像として残る作品なので、確実に観てもらえるというのが演者としては嬉しいです。

ウォーリー:確かにそうだね。舞台って一回公演終わっちゃったらもう観られないから。

内海:そうなんです。しかもこのコロナ禍なので、舞台が中止になってしまったら、ひとつの作品を誰にも届けられないまま終わってしまうんですよ。

ウォーリー:あぁ、それは本当にね。

内海:もったいないじゃないですか。こんなに素敵な役者さんが集まったのも奇跡だし、出来上がった作品も奇跡だと思えるような舞台を、お客さんの前でみせられない。僕も中止になった舞台がたくさんあって、その時にどこにぶつけていいのか、実際にはどこにもぶつけることのできない想いがあるんです。これは僕だけじゃなくて、全役者さん、全スタッフさんが皆そうだと思うんですが「この悔しさをどうしたらいいんだろう」って心底思うので、だから何か生でお届けするのとはひとつ違った形で、映像だけれども限りなく舞台と同じ感覚の作品が残せるということは、僕にとって一番の魅力で強みだと思います。

拡大ウォーリー木下(右)&内海啓貴=岩田えり 撮影

ウォーリー:特に今回は初めての経験だったので、僕も色々勉強させてもらいながら取り組んでいきましたから「こんなこともできるんだ!」という発見ばっかりだったんですね。反対にもちろん「あーこういうことは出来ないんだな」ということもたくさんあったのですが、それは僕が修練すればできるようになるなという部分も多いですから、それはこれから第二弾、第三弾があるなら、積極的に取り入れていくVR作品を創りたいです。僕は基本的に技術的なことがとても好きなので、技術のプロの方々と一緒に「こういうことをできるようにしていきませんか?」というような話しをしながら、色々と取り組みたいですね。

 特にこのVR演劇の場合は音がとても重要なので、今回バイノーラルマイクという人間の耳の形をしたマイクを使っていて、実際にその場で音を聞いているかのように感じられる形にしていますが、やはり観ている方がガンガン動いたりすると、ほんの少しだけ音がズレていくんですね。その辺のシステムなどは正面を向いたらちゃんと正面から聞こえてくるようなことがしっかりできるような技術も取り込んでいきたい。今回の作品は椅子を座って観るということを前提にした作品ですが、立って動いたり、物をぶつけたりとかもできるような。今VRではルームランナーで走りながらするようなものもありますよね。

内海:あります、あります!

ウォーリー:あんなものをつけながら、自分も走りながら舞台を体験できるような。家にいながら自分が役者になれるというようなね。

内海:面白いですね。

ウォーリー:更にインタラクティブなことも入れて行って自分が台詞まで言えるようになったら面白いな、そういうことができたらいいなと思っています。

「OK!」って言いながら「本当にOKなのか?」みたいな

拡大ウォーリー木下=岩田えり 撮影

──苦労したエピソードなどがあれば教えて下さい。

内海:苦労した点と言えば、VRって何個もカメラがついていて、その間を、あれはなんて言うんですか?

ウォーリー:レンズとレンズの間だね。

内海:そこに立つと歪んじゃうんです。

ウォーリー:ちょっとなんだけどね。でも歪む。

内海:だからここに立ってはいけないという、映像作品にも、舞台作品にもない感覚がありました。立ち位置はここだとなったらここにいないといけないので、そこは僕もそうでしたし、他のキャストの皆さんも一番苦労していた点だと思います。本当にちょっとズレただけで、「あ、今、肩がなくなっちゃった!」(笑)みたいなことがあったので、そこは気をつけていました。

ウォーリー:本番中は病室の壁に囲まれた形のセットの中で収録しているので、僕もヘッドホンで音を聞いて、モニターからしか見られないんですね。だからどうしてもわかんないところがあるんです。「OK!」って言いながら「本当にOKなのか?」みたいな。一番長いシーンで18~19分あるんですが、その緊張感はすごいもので、たぶん普段の本番よりも緊張していると思います。さっきも言ってくれていたけど、18分目にミスったら1分目からやり直しなので。

内海:それは本当に大変でした。

ウォーリー:でも一方で観るお客さんのことを考えたら、ちょっと台詞を噛むとか、そういうことはどうでもいいんですよ。ただ、今ここでやっているようにエネルギーを伝えたい。例えばケンカのシーンがあるとしたら、そこで本当にケンカをしている臨場感がなかったら、少しでも嘘っぽかったらやっぱり使えないんです。でもそれはやっている役者さんが一番わかっているし、あー今本当にスイッチ入ったなというところをOKテイクにしておけば、ケンカの最中に少々台詞を噛もうが、そこはそんなに気になりません。その辺のジャッジをしてOKテイクを出すというのがとても難しかったですね。

拡大内海啓貴=岩田えり 撮影

──逆に楽しかったことは?

内海:VR撮影自体が初めてのことでしたから、どういう風になっていくのか?という思い自体も楽しいことでしたし、この緊張も楽しんじゃおう!と思いました。やっぱりこの病室の壁に囲まれた形のセットの中ってすごくのまれるんですよ。だから何も考えずにお芝居に集中しようと思いました。その段階ではVRだとか、そうでないとかはむしろ関係なくなって、お芝居を楽しもうと思っていました。

ウォーリー:この企画自体が普段やっていることと全く違うので、全てが楽しかったですね。まだまだできることってたくさんあるんだなってことに気づけたのが、このコロナ禍の中では僕にとっての救いになりました。コロナ禍でなければ、こういう作品はたぶん作っていなかったと思いますから。

内海:そうだと思います。それはすごく感じます。

──コロナを肯定する訳ではもちろんないですけれども、そこから新しい発想が生まれる機会になったのは、ひとつの希望というか前進ですよね。

ウォーリー:そうですね。本当にそういうことだと思っています。

拡大ウォーリー木下=岩田えり 撮影

──内海さんの声は主観として聞こえてくるということですが、マイクはどうしていたのですか?

内海:実は僕だけはピンマイクをつけていたんです。他のキャストの方はつけていないのですが。

ウォーリー:内海さんの声はお客さんの頭の中で聞こえるという設定なので。

内海:あ!そういう意味だったんですね?演じている僕らも完成形については全くわかっていないので(笑)、「あれ、僕だけマイクつけるんだね?」と話したりしていました。だからこそ完成がすごく楽しみですね。稽古中も直人の状態が悪い時には目をつぶっていましたから、皆さんの台詞は聞いていますけれど、どういう表情をして僕を見ていたのかな?などは完成形が初めて観ることになるので、VRは誰の表情を見るかを選べますから、一人、一人見ていきたいです。

◆公演情報◆
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VR演劇『僕はまだ死んでない』
・配信チケット販売: 1月17日(日)18:00~~2月28日(日)23:59
※期間中何回でも購入可。
・閲覧開始:2月1日(月)18:00~
※閲覧期間:7日間
詳細は公式サイトをご覧ください。公式サイト
[スタッフ]
原案・演出:ウォーリー木下
脚本:広田淳一
[出演]
内海啓貴 斉藤直樹 加藤良輔 輝 有子 渋谷飛鳥 瀧本弦音 木原悠翔
 
〈ウォーリー木下プロフィル〉
 神戸大学在学中に劇団☆世界一団を結成。現在はSunday(劇団☆世界一団の改称)の代表で、すべての作品の作・演出を担当している。役者の身体性に音楽と映像とを融合させた演出が特徴。ノンバーバルパフォーマンス集団「THE ORIGINAL TEMPO」のプロデュースを行い、エジンバラ演劇祭にて五つ星を獲得するなど、海外からの高い評価も得ている。メディアアートとパフォーミングアーツの融合で注目を集め、従来の“演劇”という概念を超えた新しい挑戦をし続けている。
公式twitter
 
〈内海啓貴プロフィル〉
 高校生から活動をスタートし、デビュー後はフジテレビの「GTO」やNHK・Eテレ「Rの法則」、ミュージカル『テニスの王子様』などで活躍。近年では『いつか~one fine day~』、『アナスタシア』、『黒執事 Tango on the Campania』など多くの舞台、ミュージカル作品に出演している。3月にはミュージカル『BARNUM』への出演が控えている。
公式ホームページ
公式twitter

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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