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コロナで苦境の伝統文化支える、京都「仕事作り」の実践

つくり手に寄り添った「京もの補助金」

田村民子 伝統芸能の道具ラボ主宰

「伝統芸能を支える人」を支えた施策

 新型コロナウイルスのパンデミックによって、仕事をする誰もが影響を受け、変化を迫られている。中でも、大きな傷を負った業種の一つが、公演の中止や延期、規模縮小などを迫られている舞台芸術界だ。能楽や歌舞伎などの伝統芸能も、公演を軸に、舞台に立つ人たちと裏で支える人たちで成り立つ、ひとつの産業である。それを生業にしている大勢の人たちもみな、経済的な打撃を受けた。

 私は、伝統芸能の裏方やその公演に使うさまざまな「道具」を作る職人たちを取材、調査している。彼らの声を聞く中で、「現場のことをよく理解してくれた施策だった」と評価の高い公的支援制度を知った。

 京都府が実施した「『京もの指定工芸品』購入支援事業費補助金」(以下「京もの補助金」) だ。

 

拡大佐々木能衣装の仕事風景=京都市上京区
これは、新型コロナウイルス感染症によって多大な影響を受けている京都の事業者が、府が条例で京都を代表する伝統のブランドとしている、西陣織や京焼・清水焼、京友禅、京小紋、京繡(刺繡)、京漆器、京たたみなどの「京もの指定工芸品」を購入する際に使える補助金だ。驚くべきは、10分の9以内(上限100万円)という補助率の高さ。動き出したのも早く、2020年5月1日から申請の受け付けが始まった。

 西陣織や京扇子なども指定されているため、伝統芸能の演者が衣装や道具などを新調する場合にも、この制度を使うことができる。

 私が初めて「京もの補助金」の存在を知ったのは、2020年の6月ごろ。能や狂言のコスチュームである能装束を作る佐々木能衣装(京都市)の調査に訪れたときのことだった。

「お金」と「仕事」は違う

拡大佐々木洋次さん。2020年に文化財の保存のための「選定保存技術」の保持者に認定された=京都市上京区
 能楽の公演は、3月ごろから徐々に中止や延期になっており、それに連動して佐々木への注文が激減していた。そうした事情を聞き、実演家や演奏家だけでなく、能装束など「ものづくりの現場」への公的支援がもっとあればいいのに……と感じたのだが、社長の佐々木洋次さんは、少し違う意見だった。

 「私たちへの支援もありがたいですが、買う側の能楽師さんたちに支援があるほうが、本当はいいんですよ。やっぱり私たちは『仕事がある』ということが一番ありがたい。仕事があって、きちんと経営が成り立てば後継者も、しぜんとできますから」

 その言葉を聞いて、はっとした。

 「お金をもらえる」と「仕事がもらえる」は、似ているようで全然違う。ものづくりに携わる人にとって大事なのは「いつも通りの仕事で、お金を得られる」ことなのだ。

 特に、芸能の世界のものづくりは、その多くがオーダーメイド。作る人と使う人は、がっちりつながっている。職人は使う人の顔を思い浮かべながら、自慢の腕をいかして、めいっぱい仕事をする。それに満足してもらって、お金を得る。それが心の幸福や矜持につながっている。

 それに、「仕事」であれば、いつも連携しながらものを作っている外部の職人たち、たとえば佐々木能衣装ならば、刺繍をする人や金箔を作ってくれる人たちへも、お金がまわる。ものづくりに関わるみんなに、お金が行き渡る。

 京もの補助金は、補助率の高さもさることながら、作る人の本当の望みにかなった仕組みが画期的なのだと気づいた。使う人(能楽師)のところにお金が入り、必要なもの(能装束や扇)を、信頼するところから(店や職人)買うわけだから、気持ちの面でも無理がない。そして、使う人も、作る人たちも両方いっぺんに、応援できる。その延長線上で、能楽の舞台がよいものになるわけだから、伝統文化の伝承にもつながる。まさに三方よし、の制度なのだ。

 職人たちに「これ、これ!」と言わせた、この制度はどんな風に作られたのか。

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筆者

田村民子

田村民子(たむら・たみこ) 伝統芸能の道具ラボ主宰

1969年、広島市生まれ。能楽や歌舞伎、文楽などの伝統芸能の裏方、職人を主なフィールドとして取材、調査を行う。2009年より、製作ルートの途絶えた道具を復元する活動「伝統芸能の道具ラボ」を主宰。

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