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『喜劇 お染与太郎珍道中』渡辺えり&八嶋智人 取材会レポート

こういう時だからこそ心から笑えるお芝居を!

橘涼香 演劇ライター


 渡辺えり&八嶋智人喜劇初共演で贈る『喜劇 お染与太郎珍道中』が、2月1日~17日まで東京・新橋演舞場、2月21日~27日まで京都・南座で上演される。

 『喜劇 お染与太郎珍道中』は、1979年に明治座で『与太郎めおと旅』のタイトルで初演された作品。作家の小野田勇が稀代の喜劇俳優・三木のり平とタッグ組み、落語噺を中心に、歌舞伎のエピソードも加えて描いた、大店の箱入り娘とちょっとテンポのズレた手代とが繰り広げる珍道中記だ。

 そんな作品で、喜劇初共演を果たすのが渡辺えりと八嶋智人。様々な舞台や映像で共演してきた二人だが、こうした喜劇の舞台でがっぷりコンビを組むのは初めての経験とのことで、丁々発止になること間違いなしの舞台に注目が集まっている。

 その喜劇初共演を前に、渡辺と八嶋が取材会で作品への思いや、今の時代に喜劇を上演する心意気を語ってくれた。

お弁当で言うと揚げ物が勢ぞろいしたような濃い役者たち

拡大渡辺えり(右)と八嶋智人=伊藤華織 撮影

──まず作品について感じていることから教えて下さい。

渡辺:難しい戯曲だなと思っています。と言うのは、何気ない、シンプルなストーリーで、役者の個性で笑わせるところがあって、役者にとっては一番大変な本かもしれません。でもだからこそ、とてもやり甲斐のある芝居ですね。初演(1979年)は拝見はできなかったのですが、三木のり平さんと京塚昌子さんが演じられていて、きっとお客様が大笑いしながらご覧になったんだろうなと想像できるほど。私は、三木のり平さんの『雲の上団五郎一座』の舞台を拝見しているのでよくわかるのですが、ちょっとした仕草や、台詞と台詞の間の行間を本当に面白く埋めていくので、のり平さんが何かひと言やると、共演者たちまでが笑ってしまって、なんとかこらえようと震えていたんです!笑っていないのは安井昌二さん一人だけで。

八嶋:ホントに?(笑)。

渡辺:そう、全員が笑っちゃって、お客様に至ってはもう椅子から落ちているの!それくらいのり平さんは皆を笑わせることに命をかけてお芝居をやっていらした方なんですよね。もし自分が出ていたら安井さんのように笑わずにいられるだろうか、と思ったくらい。でも、いざ自分が演じるとなったら、あそこまでお客様を笑わせることができるのかと考えてしまって、なんだかどんどん緊張してきて、ちょっと怖くなってきたほどです。

八嶋:確かに難しいと言えば難しい台本ですね。特に僕は関西人だからかも知れませんが、三木のり平さんの面白さには、悲しみや怒りもすべて込められていて、それを喜劇に仕立てている。いわば、ザ・東京の喜劇人の粋な感じが、関西人の僕にはなかなか到達できないところだろうなと感じています。それを、このとてつもなく濃い座組でお届けするわけです。お弁当で言うと揚げ物が勢ぞろいというか(笑)。大好きな先輩方にしっかりと助けて頂いて、えりさんと一緒に楽しく演じたいですね。まずは自分たちが楽しくできないとお客様に楽しんでいただくことはできないと思うので、演出の寺十吾さんを含めて、この本を東京の喜劇の粋で包んで、美味しく食べていただけるように、稽古場で皆で話し合いながら作っていきたいと思います。

リアルな気持ちで一生懸命演じるほど笑っていただける

拡大渡辺えり(右)と八嶋智人=伊藤華織 撮影

──お二人は喜劇で共演されるのは初めてということですが。

渡辺:喜劇は初めてですね。

──その相手役としていかがですか?

八嶋:どうですか?

渡辺:心配です。

八嶋:なんで!? なんでよ?(笑)

渡辺:八嶋君は漫才で言うならすごくツッコむ人でしょ。

八嶋:まぁ、そうですね。

渡辺:でもこの与太郎ってわりとボケ役でしょう?でも、私のお染もツッコむ役じゃないし。

八嶋:周りの人がツッコむんですよね。

渡辺:その加減がすごく難しいですよね。与太郎はちょっと頭の回転が遅い手代で、私のお染は今まで苦労したことがなく、どちらかと言うと乙女チックに宇梶剛士さん演じる重三郎に憧れている。そんな乳母日傘で育ったお嬢様が本当の愛情を知っていくという役ですから。リアルな気持ちを持ちながら一生懸命演じれば演じるほど笑っていただけるのではないかと思っています。

八嶋:そうですね。

渡辺:だから、わざとこちらから笑わせるような芝居はせずに、自分の存在感だけで演じようと思っています。八嶋君は、「あとは、えりさんにお任せ!」みたいなところがあるので、それが心配なんです。

八嶋:それじゃあ俺がダメみたいじゃない!(笑)

拡大渡辺えり=伊藤華織 撮影(ヘアメイク:藤原羊二/スタイリスト:矢野恵美子〈アクセサリー(アビステ:03-3401-7124〉)

渡辺:ただ心配なの!(笑)八嶋君が、こういうボケている役をやっているのを観たことがないんだもの!「カムカムミニキーナ」の舞台も毎回観に行っているけど、ほとんどがツッコんでいる役だし、意外と二枚目の役が上手いのも知っているし、色々な遊びができるのも知っているんだけど、こういうおっとりした役って新境地でしょう?

八嶋:あぁ、そうかも知れないですね。

渡辺:何もしないでそこに居たり、ツッコまれた時の反応とかを見るのが初めてだから。稽古場で周りとの様子を見ながら作っていく感じですね。でもその共演の方達にも今回昔からの友達が多いんです。それが嬉しいし心強いですね。

八嶋:本当にね!

渡辺:まず宇梶さんに「重三郎様」って言うのが恥ずかしくて、恥ずかしくて!

八嶋:あ~(爆笑)

渡辺:本当にできるのかな?吹き出しちゃわないかな!?(笑)。今回は役者として越えなければならないハードルが多すぎます!身内で慣れ合わないように、「あぁ、これ友達同士でやっているんだな」と思われないように、ちゃんと役として見せていかないといけないですからね。

八嶋:知り合いが多いだけにね。

渡辺:そうなのよ、しかもこのメンバーだったら飲みに行くのが楽しみだなと思っていたら、このコロナ禍でそれは一切できない。

八嶋:本当にね。

僕が面白くなかったら周りの皆さんのせいです

拡大八嶋智人=伊藤華織 撮影(ヘアメイク:国府田雅子(Barrel)/スタイリスト:久 修一郎(impiger)〈コート3万6000円、シャツ2万4000円、パンツ2万円 すべてBLUE BLUE JAPAN(OKURA:03-3461-8511)〉)

──八嶋さんは、新境地の役柄についてはいかがですか?

八嶋:本当におトボケ系の役なんですが、演出に寺十さんがいらっしゃるので安心です。役者でもある寺十さんは、こういう役が得意なんですよね。寺十さんが演ればいいのにと思うくらい上手だから。

渡辺:あぁ、ボーっとした役がね。

八嶋:そう、トーンも面白くて、色々導いて下さるだろうと思って楽しみにしています。それに先輩方も面白い人しか出ていないから、こっちがいろいろと仕掛ける必要がない。僕が面白く見えなかったら、それは周りの皆さんのせいです!(笑)

渡辺:何それ!(笑)

八嶋:これくらい面白くて経験値の高い方々が周りにいて下さったら、きっと僕を面白くしてくれるはずですから!(笑)。

渡辺:でも本当にすごい方達ばかりで。石井喧一さんは私が上京して初めて観た舞台、蜷川幸雄さんの『泣かないのか?泣かないのか1973年のために?』に出ていらっしゃいました。私が十代で新宿文化センターの客席から観ていた方と共演できるのが感激です。

八嶋:えりさん、石井さんと共演するの初めて?

渡辺:初めてなのよ!有薗芳記さんや、石橋直也さんとは中村勘三郎さんの芝居で共演していて、有薗さんは『地獄めぐり』の時に私の子分役ですごく面白い芝居をして下さったし、石橋直也さんも作・演出家でもある方で。あめくみちこさんは『狸御殿』の時に意地悪なお母さんでとても面白かったですし、広岡由里子さんは「劇団3○○」にもよく出てもらっている信頼できる役者さんです。深沢敦さんも彼が大学生の頃からの付き合いで、宇梶君も含めてそんな風にツーと言えばカーの人も多いですし、一方で初共演の方もいらっしゃる。それをひとつの劇団のような感じでできる芝居にしたいなと思っています。八嶋君も劇団で活躍していますし、チームワークで見せていける芝居にしたいですね。

──八嶋さんは新橋演舞場、南座共に初出演ということですが、楽しみにしていることなどは?

八嶋:演舞場も南座も人が楽しむ為に作られた劇場だなという印象があります。大きな劇場ですから、僕が小劇場でやってきたことが通用するのかなという不安もありますが、えりさんをはじめ、大劇場に慣れていらっしゃる先輩達の胸を借りて頑張りたいです。

──渡辺さんは作・演出・出演の舞台も豊富ですが、今回のような俳優として参加される舞台との違いはありますか?

渡辺:自分が書いて演出する時には自分の世界観があって、全体の演出を通してひとつのテーマを伝えていく。場面、場面を面白くしていきたいという工夫を役者さんにやってもらっている訳です。でも今回のように俳優として出演する時には、自分が演出家だからこそ、演出家が求めていることを誠実にやろうといつも心がけています。特に自分が作・演出の時に役者にやって欲しくないことは、絶対にやらないようにしています。

芝居に対して献身的な人たちが集まった

拡大渡辺えり(右)と八嶋智人=伊藤華織 撮影

──昨年からのコロナ禍で色々と大変だったのではないかと思いますが。

渡辺:やはりマスクをして稽古をするのは辛かったですね。表情がわからないし、舞台稽古で初めて「こういう顔だったの?」と初めてわかるほどで、そんなことは、これまでに経験したことがないことがなかったので大変でした。でもそれだけに、毎回の稽古は本当に真剣ですね。明日も同じ稽古が続けられるのか、舞台ができるのかがわからないという状況なので、常に悔いがないように一日一日をいつ倒れてもいいように、という気持ちで取り組んでいます。ですから1ヶ月の稽古期間があっても、初日から全速力で芝居を早く作っていくので、せっかちなタイプの私には向いているところもありますね。

八嶋:テンポ良くね。でもこのコロナ禍では僕もえりさんも幸いにも、かなりの本数の舞台をさせてもらっていて。もちろんガイドラインを遵守していますし、大変なこともたくさんありますが、マスクで顔が見えないからこそ感覚を研ぎ澄まして、相手の芝居を受けることでわかることもある。それに劇場は今、とても安全な場所だと言えるんです。徹底してあらゆる対策をしていますし、観に来て下さるお客様もご自身で感染予防対策をして、私語も控えて下さっているので、すごく静かなんですけど、終わった時の拍手などは客席が半減しているとは思えないくらい分厚いんです。分厚いって表現としてはわかりにくいかも知れませんが、舞台に立っていると確かにそう感じるんですよね。

 演舞場も本来のキャパの49%、708席での上演でお客様同士の間隔も充分に取るなど対策を立てて下さっているので、2021年の2月に1970年代にやられていた作品、喜劇をやる。しかも芝居に対してとても献身的な方達が集まって、えりさんが言ったように劇団のような雰囲気でやれることは、喜びです。

渡辺:こういう時だからこそ、心から笑っていただきたいですね。笑うってとてもパワーが得られることで、免疫力も活性化できるので、大いに笑って楽しんでいただきたいですね。

◆公演情報◆
拡大『喜劇 お染与太郎珍道中』
『喜劇 お染与太郎珍道中』
東京:2021年2月1日(月)〜2月17日(水) 新橋演舞場
京都:2021年2月21日(日)〜2月27日(土) 南座
公式ホームページ
[スタッフ]
作:小野田勇(『与太郎めおと旅』より)
演出:寺十吾
[出演]
渡辺えり、八嶋智人、太川陽介、宇梶剛士、石井愃一、深沢敦、春海四方、石橋直也、三津谷亮、有薗芳記、一色采子、広岡由里子、あめくみちこ、西岡德馬

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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