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「慰安婦」裁判で日本政府は「主権免除」を韓国に主張できない

「慰安所」経営は「主権行為」だったと認めるか?

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

国家免除(主権免除)とは

 「主権免除」とは一般に聞きなれない言葉である。ここでは、以下に論ずる国家「行為」の区分を考慮し、誤解を避けるために「国家免除」という言葉を使うことにする(いずれも国際法の分野で同義の言葉として使われる)。

 さて国家免除(主権免除)とは、「国がその行為……について、外国の裁判所の裁判権に服することから免除される」、という法理を意味する(飛澤知行編著『逐条解説 対外国民事裁判権法――わが国の主権免除法制について』商事法務、2頁)。

オスプレイの低空飛行訓練に反対する集会で抗議の風船を上げる参加者たち=2013年4月22日5日午後2時37分、山口県岩国市 拡大米軍機オスプレイの低空飛行訓練に反対する集会=2013年4月22日、山口県岩国市

 例えば米軍が基地周辺で、轟音を発する危険な低空飛行訓練を行っており、周辺住民がこの差し止めを求めて提訴したとしよう。そして裁判所がこれを認めて、訓練の停止ないし変更をアメリカ政府に求めたとしよう。だが訓練が、アメリカが国家として行う行為である以上(軍の行為はそう見なされる)、同政府は当事国裁判所の命令に従わなくてよいとされる。これが国家免除の法理である。

 だが、この法理には国の行為の性質(次項)に応じた限定が必要であり、またこの法理自体に制限を加えようとする国際的な流れが生まれている。だから、外務省の「伝達」には少々問題がある。少なくとも一定の条件づけをせずには、「伝達」のように主張することはできない(外務省はそれを知っているであろうが、官邸への忖度の結果、あたかも問題がないかのようにふるまっているのであろう)。

主権行為と業務管理行為の区別

 大まかに見て19世紀には、国家の行為はすべて他国の裁判権から免除されると、暗黙裡に見なされてきた。だが、19世紀後半~20世紀にはむしろ全面的な国家免除の弊害を認めて、いかなる種類の行為が他国の裁判権から免除され、あるいは免除されないかが、問題にされるようになった。

 19世紀、国家が他国との関係で行うのは、領土交渉、支配・被支配に関わる駆け引き、同盟へ向けた協議等、あくまで政治的なものだったが、資本主義の発達とともに、じょじょに私人もしくは私企業の行為に近い、通商的な行為(*)まで行うようになった。国際法では前者を「主権行為」、後者を「業務管理行為」と呼ぶ。
*現代の例として国際法学者・岩沢雄司氏は、「軍隊の物資購入契約、外交に関する行為(大使館建設のための資材の購入契約など)、災害復興のための食料・物資の購入契約、公的債務」などをあげている(総合研究開発機構編『経済のグローバル化と法』三省堂、65頁)。

 ところで、今日国際慣習法として成り立っているとされる「国家免除」とは、主権行為・業務管理行為をあわせた国家の行為全般が、ではなく、前者の主権行為が、他国の裁判権から免除されるという、限定された法理と見なされるのが普通である。

 つまり、外務省は国家免除が国際法の確たる原則であるかのように記すが、それはせいぜい主権行為について言えるだけであって(後述のようにこれにも限定が必要である)、現今の国際慣習法では、業務管理行為にはむしろ国家免除は適用されない場合が多いのである。

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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