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日本と韓国、演劇で結ばれた20年

現代戯曲のリーディングを重ねて【上】

石川樹里 翻訳、日韓演劇コーディネーター

朗読から舞台へ、両国で上演が広がる

拡大2019年にリーディング上演された『少年Bが住む家』=奥秋圭撮影
 実は『少年Bが住む家』も、2019年の「韓国現代戯曲ドラマリーディング Ⅸ」で朗読公演され、『韓国現代戯曲集 Ⅸ』に収録された戯曲である。台本の面白さに目をつけた名取事務所が昨年、新演出で舞台に上げた。この台本を書いたイ・ボラムさんは韓国内でも今後の活躍が期待される30代の劇作家だ。今後、彼女の別の作品が日本で上演されるかもしれない。

 このようにドラマリーディングから本公演につながったケースとしては、青年劇場の『呉将軍の足の爪』(パク・ジョヨル作)、流山児★事務所の『代代孫孫』(パク・クニョン作)、文化座の『旅立つ家族』(キム・ウィギョン作)、Team ARAGOTと新宿梁山泊の2団体がそれぞれ上演した『エビ大王』(ホン・ウォンギ作)などがある。また、ドラマリーディングをきっかけに作家の別の作品が日本で上演されたケースとして、東京演劇アンサンブルの『荷』(チョン・ボックン作)などがある。

 逆に韓国でもドラマリーディングから本公演につながったケースは多い。

 『ルート64』(鐘下辰男作)、『沈黙と光』(松田正隆作)、『こんにちは、母さん』(永井愛作)、『屋根裏』(坂手洋二作)、『杏仁豆腐のココロ』(鄭義信作)、『悔しい女』(土田英生作)、『親の顔が見たい』(畑澤聖悟作)、『プランクトンの踊り場』(前川知大作)、『ぬけがら』(佃典彦作)、『偉大なる生活の冒険』(前川司郎作)などが韓国内で上演された。

 特に『悔しい女』は月刊「韓国演劇」の2008年ベスト7に選ばれただけでなく、韓国で最も権威ある東亜演劇賞の新人演出賞と演技賞を受賞。『ぬけがら』は国立劇団の企画公演として、『親の顔が見たい』は神市カンパニーの制作で世宗Mシアターで上演され、高い評価を得た。

 また、韓国で出版されている『現代日本戯曲集』の1~9巻が大学図書館にも入っているので、演劇を専攻する学生たちがワークショップや自主公演として上演を希望するケースも多い。

 例えば、2002年に私が翻訳した鐘下辰男さんの『ルート64』はオウム真理教による坂本弁護士一家殺害事件を題材にしたものだが、最近でも年に1、2度は上演の問い合わせが来る。時と場所をこえて韓国の若い世代がこの戯曲を「閉塞感の中で生きづらさをかかえる若者たちの物語」として読み直していることに、翻訳者として新鮮な驚きを感じる。

 台本という演劇の財産を戯曲集として残すことによって、一回性の交流に終わらず、若い世代にもつなげていけることは大変うれしいことだ。戯曲の翻訳出版は、演劇交流において非常に有効な方法だと思う。

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筆者

石川樹里

石川樹里(いしかわ・じゅり) 翻訳、日韓演劇コーディネーター

ソウル在住。 日本と韓国で、戯曲翻訳、字幕製作、公演通訳、コーディネーター、ドラマターグなどを務める。日韓演劇交流センター専門委員、韓日演劇交流協議会専門委員。戯曲した翻訳は『鱈々(原作・プゴテガリ)』(イ・ガンベク作)、『ペール・ギュント』(イプセン原作、ヤン・ジョンウン脚色)、『青春礼賛』『ギョンスク、ギョンスクの父』『満州戦線』『哀れ兵士』(パク・クニョン作)、『渇愛』『獣の時間』(キム・ミンジョン作)、『カルメギ 가모메』『颱風奇譚』『外地の三姉妹』(ソン・ギウン作)ほか多数。共訳書に『韓国近現代戯曲選』(論創社)。『呉将軍の足の爪』(パク・ジョヨル作)の翻訳により2008年、第15回湯浅芳子賞受賞。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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