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【ヅカナビ】花組公演『NICE WORK IF YOU CAN GET IT』

秘められたメッセージを5組のカップルから読み解く(ネタバレ満載)

中本千晶 演劇ジャーナリスト

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 日本の商業演劇における海外ミュージカル至上主義があまり好きではない。海外でそこそこヒットしたミュージカルをもってきて、人気俳優をキャスティングしておけば客は入る、という安易なスタンスには疑問を感じるのだ(もっとも、コロナ禍で観客も作品を厳選するようになった今、そうした作品は淘汰されていかざるを得ないと思うのだが…)。

 『NICE WORK IF YOU CAN GET IT』もまたそんな作品だったらどうしようと懸念していたが、それは杞憂だった。海外ミュージカルの日本初演でこれほど大笑いし、満たされた気持ちになれたは久しぶり、というのは言い過ぎだろうか?

 禁酒法の時代、プレイボーイな御曹司と酒の密売人の女の子が恋に落ちるというストーリー。よくある身分違いの恋の話と思いきや、背後に込められたメッセージの数々が今風で心に刺さった。じつは『Oh,Kay!』という1926年初演の作品をブラッシュアップして新作に仕上げ、2012年にブロードウェイで初演されたという作品なのだった。潤色・演出の原田涼がタカラヅカらしいアレンジを加え、華やかさの中に知性とセンスを感じさせる作品に仕上がっている。

 ハッピーなカップルがあちこちで誕生する作品である。というわけで、5組のカップル誕生から、この作品に込められたメッセージを読み解いてみたい。問題はこの作品、「ネタバレしたら面白くない」度合いが非常に高いということだ。だが、東京公演が無事に千秋楽を迎えた、ということで、ここでは敢えてネタバレもあり、で語ってみたいと思う。これから大阪公演をご覧になる方はご注意ください。

ジミーとビリーが感じさせる「恋のその先」

 4度目の結婚式を明日に控えている御曹司ジミー(柚香光)。どうやら本人は恋を存分に楽しみたいと純粋に思っており、それだけの魅力も備えている。ただ、母親の手前きちんと結婚して身を固めたいという気遣いもあり、そこに財産や地位目当ての女性が寄ってきて気がついたら結婚している、そんな感じの天然プレイボーイである。

 いっぽう、一見つなぎのズボン姿もよく似合うビリー(華優希)は、実はすご腕の酒の密売人だ。といっても裏社会感はあまりなく、むしろ健気でさえある。彼女がジミーの別荘に大量の酒を運び込んだことから、ジミーも捕物騒動に巻き込まれてしまう。そして、こともあろうに、この2人が恋に落ちてしまうのだ。

 ジミーとビリーが少しずつ惹かれあっていく過程が繊細に描かれ、キュンとさせられる。この作品の魅力の肝が、その説得力にあるのは間違いない。要所要所で流れる、聞き覚えのあるガーシュウィンの名曲の数々も心を浮き立たせてくれる。

 だが、それだけではないのだ。ひねくれ者の私は恋物語のハッピーエンドを見たときに必ず「今は浮かれているけれど、この先はどうなのよ?」と突っ込みを入れたくなってしまうのだが、この作品の二人はきっと大丈夫と確信できる。

 ジミーは「ビリーと一緒に暮らせるのならそれでいい。財産は必要ない」などとありがちなセリフを言う。いつもならここで上記のツッコミを入れたくなるところだが、結局相続権は奪われず、ホッとしたビリーが即座に前言撤回するのがいい。やはり人生にサムマネーは必要なのだから。

 さらに続くオチがまたいい。実は酒の密売組織の元締めだったジミーの母ミリセント(五峰亜季)に「あなたは自分の仕事に誇りを持っているの?」と聞かれて、迷わずうなずくビリー。そしてミリセントは「息子の嫁」ではなく、自身の事業の後継者としてビリーを迎え入れるのだ。ここで、ジミーとビリーの地に足のついた未来がはっきりと見えてくる。

◆公演情報◆
『NICE WORK IF YOU CAN GET IT』
Music and Lyrics by George and Ira Gershwin
Book by Joe DiPietro
Inspired by Material by Guy Bolton and P. G. Wodehouse
2021年2月2日(火)~2月9日(火) 梅田芸術劇場メインホール
公式ホームページ潤色・演出:原田 諒

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

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