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教員の生徒への“性犯罪”に、「第三者委員会」の設置を

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 性加害の事実によって、懲戒処分を受ける教員が増えている。2018年度には公立小中高校などで過去最高の163人が処分を受けたが、2019年度には、それをはるかに超える273人が処分されたという(朝日新聞2020年9月29日付、2021年1月29日付)。社会的な問題意識の高まりが背景にあるとはいえ、この数字には驚きを禁じえない。

 学校という、閉鎖的であるばかりか、教員・生徒という非対等な関係性を利用されやすい特異な空間(ここには教育を大義とした身体接触・親密さ表現等も入り込む)で、しかも性暴力についての知識を子どもに満足に伝えられない、今日の「性教育」不在の状況下では、子どもたちが受ける被害の実数は、はるかに多いと判断しなければならない。

 精神保健福祉士・社会福祉士である斉藤章佳氏は、小児性犯罪者が生む被害者は平均すると1人あたり1000人を超えるという衝撃的な数字をあげているが(『「小児性愛」という病――それは愛ではない』ブックマン社)、いずれにせよ小児性犯罪は、私たちの時代が取り組むべき焦眉の課題である。

 ことに、子どもたちが受けるのは、その後の人生の長きにわたって、非常に大きな傷となる被害であるから、なおのことそうである。

札幌市教委による懲戒処分

生徒にわいせつ行為をした教諭を懲戒免職 にした札幌市教育委員会の記者会見。札幌市教委の紺野宏子・教職員担当部長(手前)ら=2021年1月28日、札幌市中央区生徒に性加害を繰り返した教諭を懲戒免職にした札幌市教育委員会の記者会見。謝罪する札幌市教委の紺野宏子・教職員担当部長(手前)ら=2021年1月28日、札幌市中央区

 それだけに、本年1月末に札幌市教育委員会が行った認定・処分は、実際遅きに失したとはいえ画期的である。

 教員による性被害を受けた女性(東京都在住、被害時は札幌市在住)が、当教員の懲戒処分ならびに処分までの退職届不受理を札幌市教育委員会に申し入れていたが、教委側がこれを認め教員を懲戒免職としたのである(朝日新聞2021年1月29日付)。

 この女性は2019年、札幌市および教員を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしたが、東京地裁・高裁ともに、法律上の権利が消滅する期間である除斥期間(20年)がすぎたことを理由にこれを却下した(最初の性加害は1993年になされた)。だが、高裁では被害についての事実認定が得られたことから(地裁は除斥期間経過を理由に実質的な判断をしなかった)、これを下に女性が上記申し入れを行っていたのである(同2021年1月7日付)。

 高裁が教員による性加害の事実を認定しただけに、教委側の処分は異例のスピードで行われた。除斥期間を過ぎていたため少なくない弁護士に断られながらも提訴に踏み切った女性の英断は、賞賛に値する。教委の決定は今後に小さくない影響を及ぼすであろう。

学校性加害への文科省の対策

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 だが政府はそもそもどのような対策を立てているのか(本項)。また札幌市教委側のこの間の対応に問題はなかったのか(次項)。

 昨年(2020年)は、「全国学校ハラスメント被害者連絡会」が、懲戒免職となった教員に教員免許状を再交付しないよう求めた(同2020年9月29日付)。一方文科省は、不交付期間を従来の3年から無期限にできないかどうかを検討してきたが、結局昨年末、この法改正を見送った(同12月26日付)。

 では文科省は、どういう対策をとろうとしているのか。今後も前記の法改正を追求すると同時に、当面は、「わいせつ行為をした教員を採用しないよう各自治体などに求め」、その前提として、懲戒免職を受けた教員の情報開示期間――従来は過去の3年間――を、今年2月までに40年間に延長するという(同前朝日)。

 だがこれでは少々微温的にすぎないか。問題は、

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