香山リカ(かやま・りか) 精神科医、立教大学現代心理学部教授
1960年、北海道生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『人生が劇的に変わるスロー思考入門』(ビジネス社)、『半知性主義でいこう――戦争ができる国の新しい生き方』(朝日新書)など著書多数。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
患者には「統計」ではなく「100か0か」しかない
日本に留学経験があり、その後、中国の南京にある大学で教授になった中国人の友人から電話がかかってきた。
「新型コロナウイルスの日本での感染拡大を心配しています。あなたはもうワクチンを接種したのでしょうね?」
「まだですよ」と答えると、彼女は「えー!」と悲鳴のような声をあげた。
「どうして!? あなたは病院に勤めてるんでしょう? こっちは医療従事者はほとんど全員、受けてるのに」
私は、「日本ではまだ誰に対しても接種は始まっていない」と説明したのだが、彼女は「なぜ?」「信じられない」「早く受けて」と繰り返すばかりであった。
たしかに日本でのワクチン接種は遅れている。2月5日、WHO(世界保健機関)は、新型コロナウイルスワクチンの世界の接種回数が1億400万回を超え、感染者の人数を上回ったことを明らかにした。ただ、接種はGDPの高いいわゆる先進国に偏っている、とWHOは懸念している。そして、日本は先進国であるはずなのに、少なくとも公式発表では接種回数はゼロのままなのである。
中国で接種が始まっているのは、ウイルスから病原性を消してその一部を使う「不活化ワクチン」という従来型のもので、日本が採用を予定している新しい技術を用いたmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンとは異なるとはいえ、オリンピックを予定している国でのこの大幅な遅れは私の友人でなくとも、やや奇異に感じるのではないだろうか。